石油豆知識[溶剤]

工業ガソリン 石油系溶剤(試薬) 工業用石油系溶剤
溶剤の溶解力の尺度
(その1)
溶剤の溶解力の尺度
(その2)
石油豆知識
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工業ガソリン

 工業ガソリンはJIS規格により,1号(ベンジン),2号(ゴム揮発油),3号(大豆揮発油),4号(ミネラルスピリット) および5号(クリーニングソルベント)の5種類に分類されている。ベンジンは白ガソリンとも呼ばれ,機械部品の洗浄用などに使用され, 沸点は30〜150℃である。用途上毒性の高い芳香族分は低く抑えられている。 ゴム揮発油はゴム溶解用で,沸点はベンジンよりやや高く,80〜160℃で溶解力向上のため芳香族分が多くなるが, 毒性を避けるため溶解カのあるシクロパラフィン(ナフテン)分を主成分とするナフテニックゴム揮と呼ばれるものもある。 大豆揮発油は大豆油などの抽出用で,溶剤回収を容易にするため沸点範囲がやや狭く,60〜90℃に規定されている。 なお,ゴム揮も大豆揮も揮発油税がかからぬようにガム質や大豆油を少量添加して販売されている。
 ミネラルスピリットは塗料用で,引火点30℃以上,終点205℃と規定されているが,沸点に換算すると140〜205℃となる。 組成として芳香族分の多いものと少ないものがあり,High Aromatic White Spiritの頭文字をとってHAWS級ソルベント, もう片方をLow Aromatic White Spirit,LAWS級とも呼ばれている。
 クリー二ングソルベントはその名の通り,ドライクリーニング用のもので,沸点は150〜210℃で引火点は38℃以上と規定されている。 衣類のボタンにプラスチックが多く使われ始めて以来,溶解カを弱くした芳香族分の少ないものも市販されている。
 製造に関しては,それぞれの留分を脱硫して製造されるが,溶解力の調節にキシレンおよびC9芳香族分を混合して調製されている。 また,溶解カの尺度としてアニリン点,カオリブタノール価,溶解性パラメータがある。
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石油系溶剤(試薬)

 JIS規格では石油系溶剤(試薬)として,石油エーテル,石油べンジンおよびリグロインの3種類が規定されている。 それぞれの沸点はこの順に30〜60℃,50〜80℃,80〜110℃に90 vol%以上留出のことと規定されている。 いずれも低沸点のため,火気に十分な注意が必要である。
 石油エーテルは,3種類のうち最も軽質であり,分析試薬用あるいは洗浄用に幅広く使用されている。 1995年の改訂により,密度(20℃)についても0.620〜0.660と規格が追加され,沸点と密度の関係から構成成分として, C5パラフィンおよびC6のイソパラフィンが挙げられる。本試薬にエーテルの名前がついているが, エーテル基のある化合物は一切含まれていない。なお,軽質パラフィンのため溶解性パラメータの値が低く, シリコン系ゴムに影響があるので注意が必要。
 石油ベンジンは,しみぬき用,洗浄用,塗料用に使用され,主成分はノルマルヘキサンおよびイソヘキサンである。 昔にはベンゼン含有のものも市販されていたが,現市販品はベンゼン・フリーである。 リグロインは,工業ガソリンのゴム揮発油に似ているが,沸点範囲が狭くやや軽質である。 白金カイロ用燃料としても適している。トルエンを若干含むので毒性に注意が必要。
3種類の試薬溶剤はいずれも精製度の高い材源をカットして製造されているが, オレフィンやヘテロ化合物などの不純物が含まれないように,硫酸着色物質の試験による確認のほか, 硫化物および還元性物質が限度内であることと規定されている。また,容器には“それぞれの名称”のほか, “試薬”の表示が義務づけられている。
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工業用石油系溶剤

 JIS規格はないが,それぞれの業界で使用されている代表的な石油系溶剤を紹介する。 石油化学工場で使用されているポリオレフィン重合溶剤,塗料業界で使用されている芳香族溶剤および印刷インキ溶剤について述べる。
 エチレンやプロピレンの重合溶剤として,沸点が67〜69℃のヘキサンと93〜100℃のヘプタンがある。 いずれも混合物からなり,不純物が微量であることのほか,オレフィン系炭化水素も微量であるように 臭素インデックスの規格が設けられている。製造は最適炭化水素組成の高度水素化精製基材から作られる。
 芳香族溶剤には,沸点が155〜175℃のC9芳香族溶剤や,沸点が180〜210℃のC10芳香族を主成分とする2種類があり, アミノ・アルキド樹脂などの焼付塗料用に使用されている。この場合,溶解力の強い真溶剤はアルコールやセロソルブなどであり, 芳香族溶剤は希釈溶剤である。製造には改質ガソリン基材の高沸点留分をカットして作られる。
 凸版および平版用印刷インキ溶剤は,沸点幅が30℃以下と狭く,沸点範囲は230〜330℃に属するものである。 要求性状として版材のゴムを膨潤させないように,アニリン点65℃以上が必要。製造には高度水素化精製軽油をカットして作られる。 最近では毒性の点からノン・アロマのインキ溶剤が主流になってきている。
 これらの工業用石油系溶剤で課題になるのが税金である。重合溶剤の場合, 沸点幅を狭くして単一の炭化水素とみなす免税方法や用途によるガソリン免税方法がとられている。 また,芳香族溶剤は高密度のためガソリン税はかからない。印刷インキ溶剤の場合, 90%点留出温度が267℃以下あるいは引火点が131℃以上や樹脂を添加して10%残留炭素分を多くし, 軽油税がかからないように工夫されている。
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溶剤の溶解力の尺度(その1)

 石油系溶剤の溶解力の尺度として,アニリン点(AP),混合アニリン点(MAP)およびカウリブタノール価(KBV)がある。
 APは,等容量のアニリンと試料とが均一な溶液として存在する最低温度であり, アニリンと試料の混合物を撹拌しつつ温度を上げ,完全に溶け合って透明になっている状態から,温度を下げて濁り始めた温度である。 MAPはAPが低い溶剤,すなわち溶解力が強い溶剤に適用し,アニリン2容,試料1容,ヘプタン1容を混合し,APと同様にして測定する。
 ヘプタンのAPは69.3℃であるため,(AP+69.3)/2=MAPの式が成り立つ。組成との関係では,パラフィン系のAPは65〜80℃と高く, また高沸点になるとさらに高くなる。
 シクロパラフィンのAPは同沸点のパラフィンより15〜30℃低く,2環のシクロパラフィンはさらに低い。 また,芳香族系のAPは大変低いのでMAPで測定する。通常パラフィンおよびシクロパラフィンなどの飽和系に芳香族が混じると 1容量%につき,APは約1℃低くなる。石油系溶剤に関しては,APが45℃以下の溶剤は溶解力が強い,60℃以上は弱い部類に属し, その間は中位と言える。
 KBVはカウリ樹脂ブタノール溶液250 mlを三角フラスコに入れて,標準活字用紙の上に置き,試料を加え, 濁りが生じて活字が読めなくなった時の試料のml数で表現する。
 KBVは数値が大きいほど強い溶解力を有しており,APとは逆の目盛りである。 パラフィンで25〜40,シクロパラフィンで50前後,芳香族で100前後である。 また,APが40〜80℃のものに対しては,AP+2×KBV=130の簡略式が成り立っている。 この他に溶剤の溶解力の尺度として溶解性パラメータがある。
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溶剤の溶解力の尺度(その2)

 石油系溶剤を始め,適性溶剤の選択に有用な溶解力の尺度・溶解性パラメータ(Solubility Parameter:SP値) の簡易計算式を紹介する。
 SP値の概念はHildebrandから始まったもので,25℃における溶剤1 mlの分子間結合エネルギー (蒸発潜熱より気体のエネルギーを引いた値)の平方根と定義されている。
 これは沸点(Tb ,℃),分子量(MW )および密度(D ,g/cm3)から求めることができる。 まず,沸点におけるmol当たりの蒸発潜熱(Hb )はトルートンの法則により,沸点(K)に21 calを乗じた値に等しく
 Hb = 21×(273+Tb )となる。
 一般に分子間エネルギーは沸点より下の温度では,100℃につき17.5%ずつ大きくなり,分子間の距離が縮まる。 従って,25℃のmol当たりの蒸発潜熱(H 25)は,H 25 = Hb ×[1+0.175×(Tb −25)/100]で求まり, 分子間結合エネルギー(E )は気化のエネルギー・RT [=2×(273+25)]を差し引いて,E = H 25−596となる。 さらに,溶剤 1ml当たり(E 1)に換算すると,E 1= E ×D /MW となり,
 SP値=(E 1)1/2によって求められる1)
 SP値について,本計算値と文献値( )内を例示すると,ヘプタン7.5(7.4),シクロヘキサン8.3(8.2), テトラリン9.6(9.5)となり,よく一致している。
 SP値はポリマーの溶解や石炭液化2)にも応用でき,この数値の差が0.5以内であれば良く溶解する。 また,SP値は小さい程溶解力が弱く,大きい程強くなり,極性も高くなる。
 さらに,興味深い関係として石油性状の評価に良く使われるUOPの特性係数(K Factor)にSP値を加算すると19.5になる。 逆にK FactorよりSP値を求めることもできる。
 (注)
 1) OH基を含む溶剤は,OH基1基につき+1の補正が必要である。三菱石油技資,No.72,p.3,p.11(1989).
 2) ibid,No.59,p.62(1982).
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