石油豆知識[潤滑油]

ガソリンエンジン油 ディーゼルエンジン油 粘度指数 動粘度 stay-in-grade (oil) 石油豆知識
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ガソリンエンジン油

 エンジン油には,潤滑機能・冷却機能・密封機能および清浄分散機能が要求され,これらの機能を円滑に達成するために, 酸化安定性が優れていること,温度に対して粘度変化が少ないこと,油中に汚れ分を取り込み良く分散させることが必要である。 さらに最近,省燃費性およびロングドレイン化のために低オイル消費性が追求されるようになってきた。
 酸化安定性向上のために,ZnDTPおよびアルキルフェノール系あるいはアミン系酸化防止剤等を添加し,小粘度変化, 即ち高粘度指数の分岐の少ないイソパラフィンやナフテン系の基油さらには粘度指数向上剤を使い, 無灰性分散剤および金属系清浄剤を添加して,ガソリンエンジン油を製造している。
 ガソリンエンジン油の分類は,JIS規格も一応あるが,一般には米国のAPI(American Petroleum Institute)規格 ならびに日米の自動車工業会によるILSAC規格による性能分類が使われている。
 API規格はサービスのSをとり,戦後SA,SBより始まっており,2004年現在はSL規格となっている。 これに相当のILSAC規格としてGF-2を決めている。2001年7月から省燃費性および低オイル消費性のAPI SL/ILSAC GF-3規格が決定。 現在は,低粘度のAPI SM/ILSAC GF-4規格となっている。
 この他に使用温度条件を考慮したSAE粘度分類があり,Wの付記された0Wから25Wまでは酷寒および寒冷地規格を意味し, 20から60はこの順で温度が高くなる場所での使用を意味する。ちなみに国内主流の10W30は夏冬兼用で,マルチグレードと呼ばれる。
 最近は環境対応として,上述の省燃費性のための低粘度化およびそれに伴う境界摩擦の低減のため, Mo系の添加剤が使用されている。さらに排ガス規制の強化に伴い排気ガス処理触媒に毒性があるとの理由から, 長年使われてきた摩耗防止剤や酸化防止剤のZnDTPの添加量が減りつつある*
 (注)* 山田恭久,石油製品討論会予稿集,石油学会,東京(2001),p.54.
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ディーゼルエンジン油

 ディーゼルエンジン油の要求機能も基本的にはガソリンエンジン油と同じではあるが, ディーゼル機関の燃焼条件がガソリン機関よりも厳しいため,NOxおよびPM濃度が高くエンジン油の汚れが激しい。 このためオイルフィルターについても,ガンリン車より高精度のものが装備されているが,オイル性能も高いレベルが要求されている。
 オイル性能を示すAPI(American Petroleum Institute)規格は,コマーシャルのCをとり,CA,CBから始まり順次続き, 最近ではCF-4(1991),CF(1994),CG-4(1995:PM低減対策用),CH-4(1998:NOx対策用)の規格がある。 さらに,2002年に向けて,API規格ではPC(Proposed Category)-9がEGR(Exhaust Gas Recirculation)対策を含めた 次期オイル規格として取り進められている。また,わが国独自の規格としてJASO DH-1規格が2001年4月から運用され始めている。
 環境省によるとディーゼル車の排出ガス規制は,2008年にはこれに合わせてEGRならびにDPF(Diesel Particulate Filter) に悪影響を与えないように,軽油の硫黄分も現在(2004年)の1/5に当たる10 ppm以下への低減が予定されている。
 エンジン油への要求に関しても,清浄分散剤である金属系の添加剤はDPFの性能低下に結びつくため, 無灰系であるコハク酸イミドタイプやフェノール系のものが多く使われ始めている。 この他ガソリンエンジン油と同様に,酸化防止剤や粘度指数向上剤なども添加して製造されている*
 規格試験は専用の試験エンジンなどにて実施されるが,最近CG-4規格以降排気ガス規制対応のため,フィルター閉塞性, 動弁摩耗,高温酸化安定性などエンジン試.験項目が著しく増えている。
 高級なディーゼルエンジン油が登場する一方で,市場では経済性の面から従来の低価格のCD級・ 改良品が依然として主流を占めている。
 (注)* 中里守国,ペトロテック,24,(6),469(2001).
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粘度指数

 潤滑油が優れた性能を発揮するためには,温度による粘度変化が少ないことが必要である。 この潤滑油の粘度−温度・変化特性を示す尺度として,“粘度指数”が使われており, これは1932年E.W.DeansとG.H.B.Davisによって提唱された。
 すなわち,パラフィン基原油であるペンシルバニア産原油からの潤滑油は粘度変化が少なく,これを粘度指数100, 一方ナフテン基原油であるガルフコースト原油からの潤滑油は粘度変化が大きく,これを粘度指数0として粘度指数の計算法を提唱した。
 計算の基本は,両系列の潤滑油について,100℃の動粘度から40℃における動粘度が簡単な近似二次式によって 推算できることを利用している。
 現在,JlS K 2283によってケース分けをしながら,粘度指数が100以下のものにA法が,また100以上のものに対しては, B法が適用される。まず,試料油の100℃の動粘度(Y*と40℃の動粘度(U*を測定する。 次に100℃において試料と同一動粘度(Y )をもつ粘度指数100の油の40℃における動粘度(L*と, 同じく100℃において試料と同一動粘度(Y )をもつ粘度指数100の油の40℃における動粘度(H*を おのおの相当する二次式(または表)により求める。
 そして,粘度指数(VI)は,VI = 100×(LU )/(LH )の式によって計算する。
 しかし,このA法は粘度指数が100以上のものに関しては,いろいろ不都合が生じるため,検討が続けられた結果, 100以上のものには冪(べき)関数によるB法が導入された。その式によると,VI = 100 + (10N −1)/0.00715, ここでN = (logH − logU )/ logY により計算される。
 優れた高粘度指数の潤滑油を製造するには,側鎖の少ないイソパラフィン基油の選択, ポリメタクリレートやオレフィンコポリマーなどの粘度指数向上剤の添加が有効である。
 (注)* 単位: mm2/s=cSt

動粘度

 流体の粘性を表す値。絶対粘度を密度で割った値で,通常は40℃と100℃で測定する。
 SI単位はm2s-1だが,石油製品については,かつてはcSt(センチストークス)が用いられ,現在ではmm2s-1が一般的に用いられている。
 潤滑油の粘度を表示する場合に最も多く用いられ,SAE,ISO粘度区分なども動粘度で規定されている。
 JISの石油製品規格では、軽油および重油の要求品質項目に規定されているが,ガソリンや灯油,アスファルトなどに項目はなく,石油製品の動粘度測定方法は、JIS K 2283に規定されている。

stay-in-grade (oil)

 エンジン油、ギヤ油等には通年使用できるようにマルチグレード油が用いられています。たとえば、エンジン油では0W20とか5W30、ギヤ油では75W90です。これら潤滑油には高分子化合物である粘度指数向上剤(ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー等)を配合していますが、高せん断力下のピストン部位やギヤ部位においてせん断力により粘度指数向上剤が切れます。粘度指数向上剤はその増粘効果により粘度を上げていますが、切れること(低分子化)により潤滑油の粘度が低下します(粘度が元に戻りませんので永久粘度損失と言います)。この度合いをせん断安定性と言います。
 粘度が低下することにより新油のSAE粘度分類から外れてしまうことが起こります。たとえば、5W30のSAE粘度分類(30番)では100 ℃粘度範囲は9.3 < 12.5となっていますが、粘度低下により9.3以下になるとSAE粘度分類が20番になってしまいます。使用しても粘度番手を維持できる潤滑油をstay-in-grade oilと言います。粘度が低下することにより摩耗に悪影響を及ぼすことからマルチグレード油に要求される性能の一つになっています。
 また、せん断力がかかると粘度指数向上剤の配向により一時的に粘度が低下しますが、せん断力がなくなると元の粘度に戻ることもあり、これを一時的粘度損失と言います(粘度指数向上剤の分子は切れない)。一時的粘度損失は省燃費油でよく議論されているものです。
 実験室試験では永久粘度損失は超音波試験やディーゼルインジェクター試験、ローラータペット試験により、一時的粘度損失は高温高せん断粘度計(HTHS)により評価せれています。[by Kunoki, T.]

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