石油豆知識[燃料]
ガソリン | 灯油 | 軽油 | オクタン価 | セタン価 |
航空タービン燃料油 (ジェット燃料) |
ジェット燃料の ルミノメータ数 |
重油 | 残留炭素分 | 石油豆知識 用語一覧へ |
ガソリン
ガソリンの名は,自動車用燃料として昔アメリカで販売されたある会社の商品名に由来する。
ドイツ生まれの自動車は1910年以降アメリカで急速に普及し,それに伴いガソリンも普及してきた。
JISによるとガソリンは,低速のアンチノック性能を表すリサーチオクタン価(RON)で分類され,
RON96以上のハイオクと89以上のレギュラーの2種類がある。
主成分は炭素数4〜10程度の炭化水素でできているが,最近のハイオクでは燃焼性向上のため,
酸素含有のMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)を数%混合したものもある。 製油所では,主に次の3つの基材からガソリンを製造している。 まず,オクタン価向上装置であるプラットフォーマーあるいはレニフォーマー等からの高芳香族・ 高オクタン価のリフォーメート基材。次に重質軽油や重油を分解してガソリンを作る流動接触分解装置(FCC)からの 高オレフィン・接触分解ガソリン基材。および原油の軽質ガソリン留分を脱硫した基材などである。 万物全てがそうであるように,ある厳しい条件下に物体(化合物)が置かれると, より安定な形態に変化して存在を継続しようとする。 炭化水素も然りである。450〜550℃といった高温下で触媒とともに置かれると,分解反応を伴いながら, パラフィンやナフテンはまず水素の少ないオレフィンに変化し,さらに時間が経過すると芳香族に変化する。 先に述べたリフォーメートやFCCからのガソリンは,上記の条件を経由しているため,高温下で安定しており, 燃焼時優れたアンチノック性能を示す。また,最近がん予防の観点から低ベンゼン(1%以下)のものが販売されている。 |
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灯油
灯油は,ガソリンや軽油の自動車燃料が登場するまでは,石油の代表製品として灯(ともしび)用燃料に供されてきた。
1960年ごろ,欧米から芯上下式ストーブの輸入が始まり,以後この普及とともに灯油の消費量が急速に伸び始めた。
さらに,ガス化燃焼式ファンヒーターの普及がこれに続き,今日に至っている。
また,硫黄分が少ないため,都市のビル暖房用燃料にもよく利用されている。 J1Sによると1号灯油(白灯油)と発動機用燃料の2号灯油(茶灯油)がある。 しかし,通常は白灯油のみが生産されており,これが茶灯油を兼用している。 灯油は,炭素数9〜15程度の炭化水素からなり,安全性の面から引火点が40℃以上(初留点150℃以上に相当)の規格がある。 95%留出温度については白灯油の場合270℃以下,茶灯油は300℃以下となっている。 また,白灯油については燃焼時すすの発生がないように煙点*が23 mm以上の規格がある。 さらに,白灯油について1996年から公害防止の観点より,硫黄分の規格が150から80 ppmへと厳しくなっている。 全石油製品の11%を占める灯油は,煙点の高いパラフィン系炭化水素の多い材源を選び,高圧水素下で脱硫触媒に通油して製造されている。 灯油の密度は0.79〜0.80 g/mlであり,これを超えるものは好ましくない。 また,14 wt%の水素を含むため,1 リットルの灯油が燃焼すると1リットルの水分が発生するので,加湿の必要性はないが, 多量の酸素を消費するので換気には十分な留意が必要である。灯油の取り扱いで大切なことは, ガムが発生しないように貯蔵時に太陽光を避けることである。 (注)* 煙点:エンテンと読む。規定の木綿芯で,すす発生のない最大火炎長(mm)。 |
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軽油
軽油を広辞苑で引くと,(1)ディーゼル燃料。(2)石炭からのガソリン留分。と書かれている。
「軽油」は漢字として不適当であり,中油あたりが適当だったのかもしれない。
また,和製英語でGas Oilがあるが,英語ではDiesel Fuelであり,欧米人には通じにくい。
このGas Oilの名は,石炭ガスからベンゼン,トルエンを回収するためのガス吸収油の沸点が280〜340℃であり,
これに類似していたために残ったのであろう。
さて,本来の軽油の話に戻ろう。現在言う「軽油」とは,沸点が170〜360℃,灯油と重油との間の留分で,
各種ディーゼル燃料として使用されている。原油から得られた直留軽油を深度脱硫で硫黄分を除去して製造されている。
しかし,天然の硫黄化合物が欠如すると,潤滑性能が下がるので,これを補うために潤滑性向上剤(L1)を少量添加して調製される。
また,冬季には必要に応じて流動性向上剤(FI)も添加されている。 軽油の最重要性状は流動点である。使用時に燃料タンクからエンジンまで円滑な流送が肝要であり, JIS規格でも流動点により5種類に分類されている。特1号軽油は流動点が+5℃以下,1号軽油同−2.5℃以下,2号軽油−7.5℃以下, 3号軽油−20℃以下,特3号軽油−30℃以下の5種類がある。 特に,冬季にディーゼルのレンタカーを借りてスキー場など寒冷地に出かける時には軽油の選択を誤ると命にかかわるので注意を要する。 次に重要な性状は,セタン指数(セタン価)である。圧縮着火がスムーズに起こるようにJISでは, セタン指数45(あるいは50)以上の規格があり,53〜55程度のものが供されている。 硫黄分の規格は2004年現在,50 ppm以下であるが,さらにNOxやPMを下げるために, 2008年から硫黄分が10 ppmへ低減される計画である。 |
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オクタン価
オクタン価とはガソリンの燃焼特性を表す尺度で,ノッキングを起こしにくいイソオクタンを100,
ノッキングし易いノルマルヘプタンを0と定め,その中間の値はこれらの混合物により,イソオクタンの%で表す。
測定には火花着火式CFRエンジン(単筒式)を用いて標準燃料と比較しながら行う。
リサーチ法とモーター法オクタン価の2方式があり,ガソリンのJIS規格はリサーチ法で規定されている。 リサーチ法に比してモーター法は,測定条件が過酷であり,通常モーター法オクタン価の方が10前後低い。 この差をセンシティビティーと呼び,温度に対する敏感さを示す。 規格エンジンでも燃焼室が汚れてくると,測定値が次第に低めとなるので,トルエン系点検燃料を用いて, 原則として毎日チェックし,規定の範囲内であることを確認する。 これをトルエンチェックと呼んでおり,延べ運転時間が200〜300時間になると,規格値から外れるので,分解・整備をする。 燃焼は燃料の組成と空気の条件により異なるので,オクタン価の測定には乾燥空気を用いて吸入空気温度を規定して行い, さらにモーター法では混合気温度を149℃と規定している。 ただし,トルエンチェックが外れた場合には,141〜157℃の範囲で調製してもよい。 高オクタン価とは,燃料が高温下でしばしの忍耐の後,ジワリと力強く燃えることで,着火温度が高い程オクタン価が高い。 一例を示すと,リサーチ法オクタン価が120以上のトルエンの自然着火温度は552℃, イソオクタン434℃,ノルマルヘプタン230℃である*。 この他,実車によりシャーシダイナモや道路走行して測定するロードオクタン価がある。 リサーチ法オクタン価は低速側を,モーター法オクタン価は高速側のロードオクタン価の尺度となる。 (注)* Anal. Chem. ,20,(3),238(1948). |
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セタン価
高セタン価とはディーゼルエンジンで燃焼させた際,ニトロ火薬のように遅滞なくパッと燃える性能のことであり,
このパッと燃える尺度がセタン価である。標準燃料として着火し易いn -セタンのセタン価を100,
着火しにくいヘプタメチルノナンを15として,それぞれを混合して標準燃料を作る。
測定は圧縮比可変の圧縮着火式CFRエンジン(単筒式)により回転数900 rpm,吸入空気温度66℃にて標準燃料と比較しながら行う。 軽油のJIS規格はセタン指数で規定されており,これはセタン価とほぼ等しい。 このため軽油の着火性能の尺度として,50%留出温度とAPI比重から計算できるディーゼル指数が使われている。 また,石油会社でのセタン価測定用エンジンの普及は十分ではない。 原油から製造した軽油では,密度が同じ場合,50%留出温度が10℃高くなるごとに2.7セタン程度高くなり, 50%留出温度が同じ場合,密度が0.01低くなるごとに4セタン程度高くなる。 また,炭化水素組成とセタン価の関係では低密度のn- パラフィンのセタン価が最も高く,高密度の芳香族炭化水素は最も低い。 昔は標準燃料としてα- メチルナフタレンを用いて,これのセタン価を0としていた。 この組成とセタン価の関係から先に述べた密度とセタン価の関係をうまく説明できる。 また,セタン価向上剤にはニトロ化合物が使われている。 セタン価とオクタン価を比べると,高オクタン価とは,燃料が高温下でしばしの忍耐の後, ジワリと力強く燃えることで,着火温度が高いほどオクタン価が高い。 一方,高セタン価は我慢することなくパッと燃える性能のため,反対の目盛りとなる。 ちなみに文献*によると,セタン価60はオクタン価0に,セタン価0はオクタン価100に相当する。 (注)* E.M.Nyoaard et al., J. Inst. Petr. , 27, 348(1941). |
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航空タービン燃料油(ジェット燃料)
JIS規格によるとジェット燃料は,1号の灯油型(低析出点),2号灯油型および3号広範囲沸点型(ガソリン型)の3種類がある。
ジェット燃料は国際品のため,ASTM(American Society for Testing and Materials)が基本になっており,
JIS 1号,2号,3号はこの順にASTMのJet A-1,Jet A,Jet Bに相当している。 わが国では民間用として安全性の高い1号が使用されており,自衛隊では一部ガソリン型の3号も使われている。 このほかMIL規格の呼び方,JP-4(ガソリン型),JP-5(灯油型)やJP-8(灯油型)も一般に使われている。 ジェット燃料の性能として大きく次の3つが要求される。まず析出点が低いこと。 すなわち,−40℃といった低温の成層圏を飛ぶ際,水分やワックス分が析出して,フィルターが閉塞しないように, 1号では析出点が−47℃以下,2号は−40℃以下,3号では−50℃以下と決められている。 このために高沸点のn- パラフィンを含まないほか, 水分は燃料搭載直前まで水吸着剤やコアレッサーフィルターにより除去されている。 次に熱安定性が要求される。すなわち,飛行中翼の先端部が空気との摩擦で高温になるので,ジェット燃料により冷却をしている。 この加熱時にタール分が生成しないよう,260℃(加圧下)の高温での熱安定度の試験がある。 また,熱安定性の向上にアルキルフェノール等の酸化防止剤が添加されている。 3番目の要求性能は,燃焼時の輝度である。輝度が高いと輻射熱によりエンジン内面が熱損傷を受けるので, 一定値以下に規定している。これには煙点(25以上)もしくはルミノメータ数(45以上)の規定があり, 後者は煙点と同サイズの灯芯で燃焼させた際の温度と輝度をプロットして標準燃料と比較して計測し,この値が大きいほど低輝度である。 このほか燃料移送時の安全性確保のため電導度調整剤の添加や,燃焼性に悪影響のある芳香族分25%以下,発熱量の規定, タンク容量も重要なため密度の規定なども設けられている。 |
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ジェット燃料のルミノメータ数
ルミノメータ数とは,ジェット燃料の燃焼性能を示す尺度で,
この数値が高いほど燃焼時に輻射熱が少なくジェット燃料として適している。測定には灯油の煙点と同一の灯芯を用いて,
オレンジフィルターを介して火炎の輝度と火炎真上に設置してある熱伝対により温度を測定し,
グラフを利用して輝度45の時の温度を読み取り,計算により求められる。 標準燃料には,テトラリンとイソオクタンを用いて,前者のルミノメータ数を0,後者のそれを100として評価する。 テトラリンの煙点が輝度の基準点となり,これがあらかじめ45になるように設定されており,この時の温度は約105℃である。 一方,イソオクタンの温度を輝度30,40,50および60程度で測定し,輝度45の時の温度をグラフから読み取ると250℃前後となる。 さらに試料についてイソオクタンと同様に測定し,輝度45の温度が200℃であれば, 100×(200−105)/(250−105)=66のようにして求められる。 燃焼性の尺度となる煙点の測定には熟練度を要するのに対して,ルミノメータ数試験機は,センサー測定のため個人差が少ない。 分子構造との関係では,n- パラフィンのルミノメータ数は150〜240で最も高く, 炭素数が増えると水素含有量が下がるため低下する。 また,水素1個の第3炭素原子や水素のない第4炭素原子を含むイソパラフィンは低くなり, 100〜140であり,環状のシクロパラフィンは50〜120,水素含有量の少ない芳香族は最も低く,−10〜15である。 傾向はセタン価に似ており,オクタン価とは逆である。 |
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重油
重油はJIS規格により動粘度で1,2,3種に分類されているが,慣用呼称としてこの順にA,B,C重油の名前で取引されている。
これは米国で,古くからBunker A,B,Cの呼称があり,受け継がれてきたのであろう。
また,重油のJIS規格には動粘度の他に引火点,残留炭素分,水分,灰分や硫黄分などについても規定がある。 重油はかつて石油の主流製品であったが,自動車の普及と産業構造の大きな変化により減少し,B重油はほとんど姿を消し, 石油製品のうち12%がA重油,16%がC重油となっている。 A重油の動粘度(50℃,以下同じ)規格は,20 mm2/s以下で,加熱なしで使用ができる。 一方,C重油の方は高粘度のため,使用時に加熱が必須である。このC重油の動粘度規格は時代とともに変化し, 特に1978年にそれまで1号から4号までの動粘度が50〜400 mm2/sの範囲であったものが,製造技術面も考慮して見直しがあり, 1号から3号で50〜1000 mm2/sの範囲に拡大された*。 製造に関してA重油は少し重めの軽油留分に残留炭素分を含む重質分あるいは重質芳香族分を少量添加して作られており, またC重油は原油の沸点が300℃以上の留分を主原料として,これに粘度調節のため軽油留分を混合して製造されている。 重油の用途は,鉱工業用燃料の他,電力用燃料および業務・家電用燃料である。 C重油中には極性の強いアスファルテンおよびレジンがあり, これらが乳化性能を有して安定なW/O型エマルションを形成するので水分分離には十分な考慮が必要である。 (注)* 石油産業活性化センター(PEC)報告書「石油精製技術動向調査総括報告書」(上巻),p.518,p.534,(1995年3月). |
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残留炭素分
JISに規定されている残留炭素分(以下,残炭分)の試験は重油,原油のほか,軽油の10%残油などに適用される。
残炭分は,重油燃焼時のばいじん発生量,重油をガス化する際のコークス化の程度およびディーゼル燃料の燃焼室における
炭素生成量に大きな影響を与える。 残炭分の測定法には,コンラドソン法とミクロ法があり,後者は簡便式で試験に用いるサンプル量が少ない。 標準法であるコンラドソン法は,磁器るつぼに試料3〜10 gを採取し,ふた付き鋼製二重るつぼ内に収め, 30分間一定の条件でむし焼きにし,磁器るつぼ内に残留した変化物を定量して,重量%をもって示される。 重質油に関する多くのデータを整理したところ,油の密度と残炭分の間に密接な関係があり*, 密度が0.90以上になると残炭分が増え始め,密度0.90で残炭分が2%,同0.95で8%,同1.00で17%, アスファルトのような密度1.03で24%前後となっている。 原油の沸点との関係では,550℃以上の留分になると残炭分が多くなる。 組成的には,高沸点縮合芳香族炭化水素,レジン分,アスファルテン分の残炭分が多く,パラフィン系炭化水素は極めて少ない。 石油製品としては,芳香族分の多い流動接触分解装置からのデカント油や潤滑油精製装置から副生するエキストラクトの残炭分が多い。 なお,燃焼時に残炭分がすべてばいじんになるのではなく, 残炭分のほんの一部がコークス状のセノスファ粒子を経てばいじんとなる。 (注)* ペトロテック,7,(3),204(1984). |
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