平成19年度 経営情報部会 WG2活動成果報告
WG2 予防保全システムに関する調査−予防保全のための設備状態監視システムに関する調査・検討−
参加メンバー: | 黒田 芳信(東洋エンジニアリング)、立花 裕(日揮情報システム)、本田 達穂(横河電機)、松井 正範(山武)、三田村 知行(日揮情報システム)、矢野 孝弘(新日本石油)(敬称略、50音順) |
*メンバーの所属および下記成果報告書は2008年3月現在のものです。
はじめに
近年、石油精製プラントをはじめとしたプラント設備の保全活動へは、設備の高経年化、長期連続運転等の情勢に対応して、より高度なものが要求されつつある。そこで、石油学会経営情報部会 WG2(以下、本WG)では、保全活動の中における大きな命題のひとつである予防保全に関して、次の目的のためアンケートを実施することとした。- 予防保全における情報収集と高度利用の状況調査
- 各種仕組みやシステムの導入実態の把握
- 今後の課題や方向性の検討
1. 活動内容
「予防保全」と言っても範囲が広いため、対象を絞り込むため、まずは設備保全業務のマップの整理を行った(図参照)。
次に、アンケートの方向性を以下のとおり検討した。
(1)現状把握を中心
運用を含めた実現機能、導入システム数の確認
(2)情報の利用状況へ焦点
監視対象の調査、状態監視データを保全計画に反映しているか等
(3)状態監視に関するシステム導入状況や要望の確認
オンラインモニタリングの仕組み、要望の確認、機能単位でのパッケージソフトやエクセル利用と理由の確認 (4)各社の要望および方向性の確認
要望および理由をまとめ、方向性を確認
アンケートは機器ごと(回転機、静機械、電気、計装)に作成し、現状に合った質問内容とするために、更に状態ごと(運転中、定修中等)、方法ごと(オンライン、オフライン)に監視・診断の最近の特徴を検討し、アンケート内容の土台とした。
2. アンケート集計結果
14社28製油所にアンケートを依頼し、うち23製油所から回答を得た(回答率82%)。以下にその集計結果と現状分析を記す。
2. 1 回転機
2. 1. 1 オンライン監視回答23製油所のうち88%がオンライン監視・診断システムを設置している。製油所別に見ると、設置点数にばらつきが大きい(最大:1100、最小:2)。
67%の製油所で、複数項目(振動振幅/油漏れ/温度監視)を監視し、警報出力機能を実現している。振動波形を解析し、異常内容をガイダンスする機能を実現しているのは22%にとどまる。
2. 1. 2 オフライン監視
回答22製油所の全数が回転機のオフライン監視・診断システムを設置している。
簡易診断装置は、22製油所中19製油所(86%)で導入され、ほぼ浸透している。簡易診断装置は、定期診断(82%)にも、スポット診断(73%)にも活用され、日常保全活動に組み込まれている様子が伺える。
2. 1. 3 オンラインニーズ
回答22製油所の内81%が主要機器のみの設置でよいと考えている。オンライン回転機監視システムが不要と考えている製油所は1製油所のみであった。
オンライン回転機監視システム導入の課題として90%の製油所でコストが見合わないと回答している。一方で省力化を期待している製油所は25%で、現状からのコストダウン圧力は大きくないようである。
技術が未成熟と判断している製油所は5%に留まり、システムのコストダウンが進めば導入が推進される可能性が見える。
2. 2 静機械
2. 2. 1 オンライン監視回答製油所の50%がオンライン腐食モニタリングシステムを設置している。製油所別に見ると、設置点数にばらつきが大きい(最大:56、最小:2)。
設置点数を見ると、ほとんどが常圧蒸留装置で、他に脱硫、減圧蒸留、接触改質、水素等がある。 全て電気抵抗法となっている(油は、分極抵抗法、電気化学ノイズ法等が使用できないことによる)。システムが有する機能は、トレンド表示、警報と腐食率の予測推定が半分ずつであった。
2. 2. 2 オフライン監視
オンライン腐食モニタリングの点数と比較して、圧倒的に点数が多い。静機械の状態監視は「運転中検査」に頼っていることを示している。
1製油所あたりの運転中検査点数は、平均で約5万点とかなり多い。配管の点数が他の機器に比べて85%と大きな割合を占めている。
連続運転の長期化が進んできており、運転中検査点数が増加傾向にあると考えられる。運転中検査の点数、考え方は製油所によって大きく異なっていることが伺える。
2. 2. 3 オンラインニーズ
設置目的は、設備の信頼性向上による操業安定化が全体の60%を占める。コスト面は設置の障害としては30%で、それほど導入障害になっている状況ではない。
オンラインプローブによる検出の信頼性、保全に問題があり、技術不足が導入の障害になっている。新たに高温環境の腐食監視、埋設管の腐食監視にオンライン監視の期待が挙げられている。
2. 3 静機械(熱交)
2. 3. 1 機能別実現状況と導入範囲レイアウト・検査履歴管理機能は実現率が91%と高い。保全計画立案・解析機能の実現率は70%である。各々の機能は50%がパッケージソフトでの実現である。
システムの導入は全機器を対象とする製油所が84%を占める。
2. 3. 2 導入パッケージ内訳と導入が困難な機能
導入に障害があると指摘されている機能は予測機能である(34%、11製油所)。その理由は、パッケージソフトウエアの機能不足が67%を占める。
2. 4 静機械(配管)
2. 4. 1 機能別実現状況と導入範囲情報の管理機能は実現率が86%と高い。損傷予測機能の実現性は40%と低い。
機能実現は、パッケージソフトでの実現が60〜70%と多い。機能実現は、他の静機械よりも少ない。図面、監視データ、履歴の情報の管理機能に注力されている。
システムの導入は主要機器を対象とする製油所が68%と大勢であり、全機器対象も32%存在する。
2. 4. 2 導入パッケージ内訳と導入が困難な機能
導入に障害があると指摘されている機能は予測機能である(34%)。その理由は、パッケージソフトウエアの機能不足が50%を占める。
2. 5 静機械(搭槽)
2. 5. 1 機能別実現状況と導入範囲情報の管理機能は実現率が高い(図面管理95%、監視データ管理90%)。静機器の中では最もシステムの実現率が高い(解析機能72%、計画立案機能77%、予測機能64%)。機能実現は、パッケージソフトでの実現が多い。表計算ソフトと自社開発の実現方法が30〜50%を占める。
システムの導入は全機器を対象とする製油所が81%を占める。
2. 5. 2 導入パッケージ内訳と導入が困難な機能
導入に障害があると指摘されている機能は予測機能である(31%)。その理由は、パッケージソフトウエアの機能不足が50%を占める。
2. 6 電気
2. 6. 1 オンライン監視回答21製油所のうち38%がオンライン監視・診断システムを設置している。高圧ケーブル以外はオンライン化がそれほど進んでいるとは言えない。導入されているオンライン監視・診断システムの機能としては、トレンド・アラーム表示が主でほとんどが予測機能を持たない。
2. 6. 2 オフライン監視
ほとんどの機器に対してオフライン監視を行っている。主な検査診断内容は絶縁検査・診断である。半年以上の検査周期が多く、突発故障等のトラブルが少ないことの表れと言える。
2. 6. 3 オンラインニーズ
主要機器だけへの導入が50%を占めている。その理由は、全てに導入するにはコストがかかり過ぎるためである。設置の目的は、多くの製油所(65%)で信頼性確保が目的であると回答している。
2. 7 計装
2. 7. 1 オンライン監視DCSでの状態監視システムの導入が50%と大きく進んでいる。診断の手法は、設置環境の監視を行うことで機器の状態を監視する手法が50%を占め、次いでメーカー系の遠隔監視によるもの、および機器自体の自己診断機能を活用しているものが、それぞれ45%を占めている。
2. 7. 2 オフライン監視
機器のデジタル化については、55%で導入されていたが、40%ではデジタル化されておらず、依然アナログ機器が50%を占めていると推測される。また、デジタル化を導入している製油所においても、その導入割合は平均で38%、最大でも80%となっている。 センサ(発信機)、調節弁等のフィールド機器では、フィールドバスの導入は1社で、その割合も2%程度との結果となった。
2. 7. 3 オンラインニーズ
計装機器の状態監視は、装置停止中に行うという回答が大半を占め、回答19製油所のうち、90%が装置停止中に何らかの形で状態監視を行っていることが分かる。また、少数ではあるが、装置運転中においても、実施している項目があった。
以上が機器ごとの現状の分析結果であるが、以降にまとめと考察を記す。
3. アンケートまとめ
3. 1 全般
国内製油所の実情が見えたことは、現状から今後を展望する上で有意義であった。オンライン監視診断の目的は、プラントの信頼性向上・安定操業が主であり、省力化・コスト低減を目的としている例は少なかった。
監視システム導入の障壁には、静機器についてはセンサの安定化・信頼性向上が、その他の機器についてはコスト低減が多く指摘された。
3. 2 回転機
オンライン監視診断技術は確立しており、主要回転機を中心としてオンライン監視のニーズは高いが、コスト面で導入が進まない状況にある。敷設コスト削減の観点から無線接続等が期待される。3. 3 静機器
オンライン腐食モニタリングは、約半数の製油所で主として常圧蒸留装置に導入されており、方式は電気抵抗法である。オンライン化は、機能面・コスト面で課題が多く、運転中検査、定修検査に多くを頼っているのが実情である。課題として、センサの安定化・信頼性向上、連続運転に対応した腐食劣化の予測・計画系機能の工場への期待があった。一方、設計情報・検査履歴情報管理システムの導入活用が進展しており、重要な位置づけにあると考えられる。
静機器検査情報システムでは、某社パッケージがほとんどの製油所で活用されており、その有効性が伺える。
3. 4 電気
オンライン監視は、高圧ケーブルの絶縁監視が大多数を占め、保安検査で義務付けられている検査が主体となっている。オンライン化への期待は技術的なハードル、ニーズの面から、それほど高くはない。3. 5 計装設備
センサのデジタル化が進み、自己診断機能が搭載されるようになり、DCSで状況が把握できるようになってきている。FB(フィールドバス)環境での技術的な進展があるものの、FB自体の普及が遅れ、現状でのセンサ情報の収集管理システムはこれからといった状況である。DCS本体の監視については、リモート監視サービスがベンダから提供されている。一方で、導圧管詰まり等機器単体からプロセスや周辺環境と組み合わせた新しい診断技術が開発されつつある。
4. 考 察
4. 1 オンライン化の今後
オンライン監視診断は回転機や電気ケーブル等実用性の高いものがあるが、状態監視把握の面からは、一部をカバーしているに過ぎない。オンラインシステムは、総じてコスト面・信頼性等が導入の足かせとなっており、会社によって設置台数にばらつきが見られた。今後は、無線化、信頼性向上に向けた改善に期待があり、実用化レベルが向上するにつれ、その役割の重要性が増してくるものと考えられる。4. 2 情報化の今後
状態把握の多くは運転中検査情報に依存していることから、今後も検査情報管理システムが重要な役割を果たしていく。また、運転中検査のデータは、紙や手入力で管理システムと連携しているのが現状である。今後はネットワーク化とデータの自動的な連携がキーポイントであり、改善が期待される。同時に、オンライン診断のデータが運転中検査情報へ連携されて、状態監視情報として統合的に扱えるシステム環境が期待される。
謝 辞
本報告書の最後に、本WGの活動に際し、アンケートにご協力いただいた各社に感謝の意を述べる(アンケート結果の詳細については、紙面の都合上割愛した)。
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