平成17年度 経営情報部会 WG1活動成果報告

WG1 リアルタイム パフォーマンス マネジメント(RPM)に関する考察

参加メンバー: 今元典夫(横河電機), 神尾洋一(東洋エンジニアリング), 小杉光春(山武), 笹田知也(出光興産), 平井隆詞(日揮), 村上大寿(出光興産)(敬称略、50音順)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2006年3月現在のものです。

はじめに

 従来から製油所管理は、経営レベルでは経営指標、本社へ付するマネジメント情報、現場レベルでは製造現場の装置単位、反応塔コンバージョンなどの運転パフォーマンスとして地道に行われ、確実に競争力強化に貢献した。石油産業を取り巻く環境変化は激しく、従来の静的管理から動的管理に変わらざるを得ない時代となってきている。最近の例では、リアルタイム経営、決算の早期化、早い意思決定、日々の油量管理、SCM、高速スケジューラ、オンサイト・オフサイト連携、CBMなど範囲は広がり、かつリアルタイム管理を目指している。
一方、仕事の品質保証をめざすために、KPIが馴染みのある言葉として定着してきたが、KPIのリアルタイム性を強調したものがRPMと考えられ、その概念やツールが様々な場で紹介されている。欧米では、2000年頃からNPRA等で構想が打ち出され、複数の業務領域で活用されているソフトウエアのデータを統合管理する製品も開発され、実用化が進んでいる。
本WGでは、わが国の石油業界における国際競争力強化の観点から、RPMについて、欧米型の構想やツールをそのまま適用できるのか、日本の経営方式や製品市場・取引慣習等を考慮する必要があるのかの見極めが急務であり、石油会社の取り組みや国内ソリューションプロバイダーの動向に関する調査、および今後の適用に関する提案を行うこととした。

1. 活動内容

 公開資料に基づき、RPMの定義やKPIとの違いに関して考察した。つぎに、製油所におけるRPM取り組みの実態と導入における課題などを把握するため、各製油所向けのアンケート調査を実施し、その内容を分析した。また、RPMに関する国内ソリューションプロバイダーにもアンケート調査を実施した。これらの結果を考察して、今後のRPM適用に関する提言を試みた。

2. RPMとは

 ARC1)によると、“RPMは「機敏な製造へのビジネス戦略」のために、ビジネスをリアルタイムで制御・改善・最適化する”と定義している。つまり、RPMはパフォーマンスをリアルタイムに測定し制御することである。 測定器は市場をつかみ、ビジネスの俊敏さを改善するために目標設定するのに使われる。そして、RPMは今日の製造業に突きつけられているダイナミックな動きに対してうまく対応できるように戦略を指示する。 パフォーマンスと外部要因をリアルタイムに監視するのは会社を正しい方向に向けることになる。さらに、RPMとは“運転改革の次期開拓者である” と表現している。
また、KPIとRPMの差異に関しては、本WGでは図1のように、KPIとRPMの概念を(1)データ処理の視点、(2)管理レベルの視点で説明した。KPIは、その分野、階層毎の指標を出すことができるシステムで、KPIや他のリアルタイム情報を活用し、操業情報を的確に把握して、次のアクションにつなげるための統合情報(管理指標)を提供するシステムがRPMといえる。

狭義のKPIから統合情報RPMへ移行しつつある背景には、表1のようなニーズの高度化とそれに対応できる技術発展がある。

注: RTDB(real time data base)

項  目 詳  細
ニーズの高度化
  • SCM
  • ジャストインタイム
  • トレーサビリティー
  • リアルタイム経営
  • 決算の早期化
  • PDCA
技術発展 制度
  • センサー
  • データリコンシレーション
  • RTDB,統合DB
  • リゴラスモデル
スピード,容量
  • CPU
  • ネットワーク

3. 石油会社におけるRPMの位置づけ

 図2は縦軸にプロセス〜本社への広がりと、横軸に秒〜期のリアルタイム性での各コンセプトの領域を示す。30年前にもてはやされたMISは、製油所・本社での領域で、月・期のリアルタイム性のないものである。この領域はARC資料の経営レベルRPM領域と重なる。ARCはMES分野はさておき、ERPレベルのRPMを強調している。RPMに関しては、明確な定義は無く二通り考えられる。一方はリアルタイム性が感覚的に一般に受け入れられているプロセスの運転制御・管理であり、他方は縦軸・横軸の全域に広がる領域である。本WGでは製油所での今後のRPM適用の実態を予想し、後者を採用した。右に振れるにつれリアルタイム性は弱まるが、ここでのリアルタイムはいわゆる実時間でなく、オンリクエストでその時点で最新の情報の呼び出し、または提供できるものとしている。

4. アンケート概要

実情を把握するために、国内製油所とプロバイダー数社にアンケートを実施した。

4. 1製油所向けアンケート

対  象: 国内30製油所
アンケート回収数: 19製油所
質問項目: 経営管理レベル・操業管理レベル・製造レベルの管理項目、管理指標用ツール(パッケージ)、RPM導入、現状の問題点、RPMツール(パッケージ)への期待

4. 2ソリューションプロバイダー向けアンケート

対  象: 国内6社
アンケート回収数: 6社
質問項目: パッケージの構想、パッケージの対象領域、機能などの詳細

5. アンケート概要

5. 1 製油所のアンケート結果

管理項目の設定については、各階層とも管理項目を設定し状況を評価している。
設定された管理項目をどのようなツールで運用しているかの問いに対して、半数が自社開発ツールを使用している。利用状況については、操業管理・製造レベルでは有効活用されているようだが、経営管理レベルでは比率が低下している。
さらに管理指標について確認したところ、管理ツールと同様に操業管理・製造レベルでは有効活用されているようだが、経営管理レベルでは比率が低くなっている。管理指標のフィードバック・管理範囲を外れた場合の対応として経営管理・操業管理レベルでは標準化できていない実情が明確になった。製造レベルでは、標準化比率が高くなるが、不明確な場合もある。指標は算出・報告・表示することが目的なのではなく、如何に迅速に次の行動につなげるかが重要であるにもかかわらず、上位の階層で十分な対応が取れていないのが実情と言えそうである。
RPM実施に関する設問として、導入・運用目的を問いかけたところ回答数が少なく、RPM認知度の低さが見受けられる。3階層の優先順位については、ボトムアップ型が約半数で、トップダウンが続く。経営レベル最優先の考え方が約30%ある。
現在の運用での問題点については、経営管理レベルでは情報の処理や結果の判断など問題点が広範囲に及び数も多いのが特徴である。
操業管理レベルではシミュレータ精度・データの同期・データの精度など、システム関連に課題があることが認識できる。回答数が多かったのは計画・実績対比のフィードバックで、即ち解析の標準化ができていないということで、せっかく出された指標が活用されていないというのは大きな問題と言えるのではないか。
製造レベルでは、運転目標変更に伴う管理目標の変更・品質ロス改善に限界、安全・環境に関する指標が不明確など、最も標準化が進んでいる最前線でも指標の取扱いが十分浸透していない製油所が少なくないようである。今、欧米で注目されているRPMツールへの期待は多くなく、情報検索・解析などの基本機能の充実が求められている。

5. 2 製油所の印象

 アンケート結果から得られた各製油所の印象として、KPIは広まったが、RPMの言葉はまだ知れ渡っていないようである。現状の総括として以下に列記する。

 PMへの課題という観点からは、現在でも各レベルのパフォーマンス管理を行っており、RPMツールへの期待は大きくないように思える。これまでの実務経験を通じて、ターゲット設定(目標の世界標準、国内標準、ベストプラクティス、社内標準との整合性他)の決め方や運用(特にフィードバック)などが重要事項として認識されているようである。現実には現場との細かな取り決め、納得の上での実行が重要となる。そのためには、基本的なツール整備(DB、データリコンシレーション、シミュレータ他)や考え方(標準化、フィードバック等)の整備が必要なことは言うまでもない。またシステム完了後の運用、継続性、効果などに不安があるようである。

6. プロバイダーアンケート結果の所感

ツールのコンセプトは、RPMに特化したプロバイダーと操業管理全体を目指したものに分別される。各ベンダーとも機能は一応のレベルである。ユーザの目的や要件が十分明確になっていない段階で、各ベンダーが得意とする機能をRPM機能として提供している感がある。
納入実績として、パッケージ導入は海外ではかなりあるが、日本では少ない。また、価格帯は広く、大差がある。(前提条件による違いか?) なお、アンケートでは、各プロバイダーから積極的な回答があったが、適用分野、機能、業務改革の支援、総合力、などに関しては公平な比較を行うためにはさらに詳しい調査が必要と考える。

7. RPM構築の手順

つぎに、実際にRPMを構築する際の手順について、重要と思われる点を以下のように整理した。

  1. 基本計画、FS
    具体的に作業を展開していく上でのガイドラインの設定と方向性がポイントと思われる。
  2. RPMツールの選定
    機能面は当然のことながら、日本語対応や開発担当者の資質・コンサルテーション能力といった実務能力に加えて、保守も考慮しておく必要があると考える。
  3. RPM導入前の環境整備
    せっかく高い機能を持つRPMツールであっても、それを運用するのはヒトであり、管理体制・ルールの明確化が重要である。ITインフラとしては、ネットワーク環境の整備・実ユーザ数を想定した通信速度の確保・サブシステムの整備が不十分であれば、RPMの導入効果は発揮できない。
  4. 維持管理戦略 
    多くのITツール導入の成果が長続きしない原因解消のため、システムの正式稼動後の維持管理戦略立案と実践を強調したい。企業を取り巻く環境が日々変化する中で、業務で求められる成果も変化していく。システムが状況変化に対応し、常に有効に活用されるためには、地道な維持管理作業が必須で、それ無しには、実務とシステムとがすぐに乖離してしまう。それを、ユーザの追加作業がなくて済むようにできるかどうかが維持管理体制に依存している。

8. 提言

ユーザおよびプロバイダーのアンケート、海外事例や文献あるいは国内ユーザの実施後の成功例、反省点を通じて得られた結果を考察し、以下の提言を行う。

  1. 標準化
    特に複数の製油所がある場合、名前、コード、計算式などの統一が不可欠である。また、RPM管理項目の決定やターゲット設定値とその運用(5W1Hや正常な場合、異常な場合のフィードバック箇所と対応方法など)など全てのことについて、予め取り決めておく必要がある。
  2. 情報インフラ整備
    RPM管理項目について、必要なシステムパフォーマンスを保障する必要がある。データの同期、レスポンスタイムや精度であり、そのためのDBや他システムとのインターフェースやオンライン化、あるいはイベント対応が可能かは重要なポイントである。また、オペレータに受け入れやすいMMIの操作性、ビジュアル性も重要である。
  3. トップダウン/ボトムアップによる構築
    海外における成功事例では、製油所トップマネジメントの旗振り(重役会、部長会から製油所への戦略目標の伝達)で運用へスムーズに移行できている。経営に直結するRPMの開発にはトップマネジメントの意気込みが全体に強く影響する。一方、現場で運用するオペレータの参画も重要である。RPMをオペレータが理解し(特にターゲット設定の相互確認)、関係者の相互理解があってこそ初めて運用できる。
  4. ツール導入時期
    メジャー系では30年以上前から指標管理を行っている。もちろん、RPMツールはなかったが、実質的には運用していた。このようなステップでRPMツールを導入すれば有効に活用できることが容易に予想できる。指標管理の長短を知り尽くし、運用のノウハウを獲得した後、RPMツールの導入に踏み切るのがオーソドックスな方法と考えられる。社会環境から悠長な取り組みが許されないだろうが、現実には併行しての導入となろう。
  5. 機能・システムの維持管理
    RPMに限らないが、システムの維持管理は共通するポイントであり、維持管理体制の充実が最も重要である。装置改造や一般のシステム変更から発生するメンテナンスに加えて、RPMではビジネスルール、会計ルールの変更にも柔軟に対応できるようにしておく必要がある。

まとめ

過去の目新しいシステムの運用が軌道に乗るまでに時間と努力を必要としたようにRPMも実際に構築するには多くの課題がある。RPMを成功に導く唯一の方法はRPMツールを入れることではなく、「今後の製油所経営のあるべき姿を希求すること」である。結果的に製油所MES、 ERPのアプリケーションのあるべき姿が浮き彫りになってくる。そしておのずと各製油所にフィットしたRPMツールが選択できる。
今回、本WGは、アンケート調査より、現状の課題の調査、競争力強化のための今後のニーズの洗い出しとツール調査に重点を置き、構築の留意点と提言を述べたが、これ以上の追求は具体的な業務見直しのための標準化・管理項目・切口等に入りこむことになるので、ここまでの検討に留めた。

本報告書の最後に、本WGの活動に際し、情報提供などにご協力いただいた各社製油所およびRPMソリューションプロバイダーに感謝の意を述べ、本報告を締めくくりたい。

*アンケート調査結果の詳細については、スペースの都合上割愛した。

参考文献

1)http://www.arcweb.com/default.aspx

用語集

RPM: Real time Performance Management SCM: Supply Chain Management
CBM: Condition Based Monitoring
KPI: Key Performance Indicator
NPRA: National Petrochemical and Refiners Association
PDCA: Plan Do Check Action
RTDB: Real Time Data Base
MIS: Management Information System
MES: Manufacturing Execution System
ERP: Enterprise Resource Planning
MMI: Man Machine Interface

 

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