平成15年度経営情報部会WG1活動成果報告

WG1 石油産業における情報インフラの調査

参加メンバー: 小杉光春(山武産業システム),白川義之(ジャパンエナジー),蓮見伸雄(新日本石油),平井隆詞(日揮),本田達穂(横河電機),吉村幸治(東洋エンジニアリング)(以上6名,敬称略,50音順。)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2004年3月現在のものです。

1. はじめに

 企業活動を進める上でソフトウエアの利用は不可欠になってきている。さらに、早く・正確にと要求度は高くなり、システムに関する製品やインフラの機能向上は続いている。ただし、IT業界はM&Aによるパワーゲームで、ユーザーにおいてどの製品を選択するかによっては、労力も含めた二重投資になり兼ねない。特に、膨大な数量・情報を取り扱う石油業界では他の産業に比べて、その格差も大きくなってしまう。このような背景を受けて、活動の目的を以下の四つに絞り、石油各社へのアンケートによる調査・検討を行ったので報告する。
(1)現在のソフト利用状況調査、(2)パッケージソフト運用上の問題点、(3)各部門での役割分担、(4)今後求められるパッケージとは

2. アンケートによる調査内容

 国内の石油会社に対して、本社と製油所にアンケートを依頼し、本社サイドから16社中11社、製油所サイドからは30製油所中26製油所から回答が得られた。

2.1 アンケート対象領域

 石油会社の様々な業務を、本社は10、製油所は6の領域に大別し、製油所業務については個々の業務領域をさらに詳細分類(図1)、具体的な業務を進める上でどのようなソフトウエアを使用しているかについて調査を進めた。


図1 アンケート対象領域

2.2 アンケート内容

 それぞれの業務領域に対して、ソフトウエアを自社開発したか、パッケージを購入したか、パッケージの場合はメーカー名と製品名を記入して頂いた。また、現在使用している最新バージョンの導入時期、今後の更新予定についても回答して頂いた。どのようなソフトウエアのどんなバージョンがいつ頃から使用されているかが回答から確認することができた。本社対象のアンケートでは、導入目的についても確認させて頂いた。なお、パッケージの場合は、運用上の問題点について、複数選択可能方式で回答をお願いした。最後に各ステップでの部門の役割分担を◎主体, ○支援で分類して頂いた(図2)。


図2

3. 本社アンケート結果・考察

 本社業務については業務領域によってソフトウエアの利用形態に特徴が見られた。経理・財務、人事、 品質管理については、パッケージが多く利用されている状況が見られた。これらの領域については、石油業界の特異性を反映する必要がなく、既に数多くの製品が販売されているため、各社の実務に合った製品の選択が可能なことによると考えられる。
これとは逆に、販売、特約店・SS管理、 物流、 受注、 調達分野は自社開発品の使用が多くなっている。これらは、石油業界特有の取引慣習・在庫管理・統計の報告といった他の業界と異なる実務形態であり、活用可能なパッケージがない、または各社の独自性に合わせるためカスタマイズが必要といった特徴があることが理由として考えられる。また高機能パッケージを開発しても、日本の石油業界以外では利用されない可能性が高く、ソフトウエアベンダーにとって魅力的でないことも推察される。
パッケージ導入の狙いとして、省力化・業務改革があるのは当然の結果と思われる。従来の手作業からOA化の域を超え、計算処理速度や記憶容量の飛躍的な伸びに支えられて、数多くの領域で高度化されたパッケージが開発されている状況にある(表1参照)。

表1 本社アンケート結果

表1 本社アンケート結果
業務領域 自社開発 パッケージ 主要パッケージ製品
1)経理財務 4 7 SAP R/3(2),Oracle EBS(2)
2)人事 7 6 日立Hiper人事・給与(2)
3)販売管理 6 2 SAP R/3(2)
4)特約店・SS情報管理 7 0  
5)物流 8 2 SAP R/3(2)
6)受注管理 8 2 SAP R/3(2)
7)原料調達 8 0  
8)資材購買 5 3 SAP R/3(2)
9)生産管理 7 4 ASPEN PIMS(4)
10)品質管理 2 5 横河LAB-AID(2)

*表中の数字は採用会社数を示す。業務領域によっては自社開発とパッケージの両方を採用している会社があり,総数は回答社数(11社)を超えている。

 本アンケート調査では、大手石油会社で事業所間の業務格差を削減するため作業環境、すなわちソフトウエアを統一することで一元化しようという動きがいくつか見られた。したがって、この調査が過渡期であったかもしれないが、日進月歩のこの領域では常に何かが変化していることが感じられた。
パッケージ運用上の問題点として、初期導入時は費用対効果の経済性検討が実施されているが、維持費やバージョンアップ対応といった継続運用する際の負担がクローズアップされていることが分かった。作業の効率化により、人員が削減されていることも一因と考えられる。
部門の役割分担では、設計・開発・保守と実際の作業が、石油会社本体からアウトソーシングされている傾向が確認できた。

4. 製油所アンケート結果考察

 製油所アンケートについては、対象業務領域と具体的な作業項目を細分化したため、46項目の設問となった。本稿では詳細な項目は割愛させて頂き、次の6つの業務領域に分割して要約を報告する。
(1)製油所経営管理、(2)生産管理業務、(3)運転支援業務、(4)実績管理業務、(5)品質管理業務、(6) 設備管理業務
また、パッケージが主体な領域と主力製品、自社開発品が主体な領域、システム化が進んでいない領域といった面からの考察を加えることにする。

4.1 製油所経営管理

 パッケージが主体の領域として、ERP : SAP社 R/3、OLAP : Symfoware navi が製油所で使われている傾向が見られた。一方、マネジメントレポートやアプリケーション間の連携システムについては要求項目が異なり、多種多様なアプリケーションが運用されているせいか、情報の接続は自社開発で対応せざるをえないように見受けられた。また他の業界では利用が進みつつある、データマイニングやナレッジマネジメントについてはシステム導入が進んでいないことが確認できた。

4.2 生産管理 

 プランニングツールはPIMSが独占状態にあるのに対して、スケジューリングツールは自社開発ソフトが主流となっている。この背景には、ある程度情報を簡素化し、最適化・収益拡大を進めるための方針を模索するプラニング領域と異なり、スケジュール領域は日本特有の特殊規格を持つC重油に代表されるような多品種・小ロットに柔軟に対応できるパッケージが難しかったことが推察される。しかし昨今では、海外パッケージで製油所全体の生産の流れをシミュレーションできるスケジューリング支援パッケージも出現しており、導入の兆しが見られた。また経済産業省主導で展開されたコンビナートルネサンスのプロジェクトの中で、これまでの業務フローを変化させることなく、システム開発が実行され、国内の石油会社で利用できるようになっていることを申し添える。

4.3 運転支援

 装置の運転支援領域でパッケージ利用が進んでいるものは、運転情報収集、プロセスシミュレーター、トレーニングシミュレーターがある。
運転情報収集は処理速度の飛躍的な伸びや記憶容量の増大に伴い、大きな機能向上が見られる。一方でパッケージのバージョンアップに際して互換性や連続運転の影響で、新規導入に比べて労力を要する傾向がある。
プロセスシミュレーター、トレーニングシミュレーターは石油産業を強く意識した製品が活用されている。実務上は、多種多様な原油を処理する日本の製油所の宿命から、モデルの維持管理が重要になると考える。
またトレーニングシミュレーターは、非定常状態をどれだけ再現できるかによって、緊急時に運転員が適切な対応が取れるよう活用の目的も多様化してきている。
最近、注目度が高まっているKPIモニタリングツールは、まだ製油所まではパッケージではなく、他の機器類の性能チェックとともに自社開発品で対応しているようである。海外では、可視化に重点をおいたパッケージの活用事例報告が多くなっていることを付け加えておく。

4.4 実績管理

 実績管理とは装置での処理数量や生産実績・出荷実績を取りまとめ、社内報告とともに、石油連盟経由で経済産業省へ報告する情報も含まれている。最近では製油所単独の実績集計でも、出荷・販売情報で販売会社間の製品相互融通(バーター)が広く実施されているため、個々の製油所で取り扱わねばならない情報も複雑化しているものと思われる。また本社の業務領域でもご説明したように、日本の石油業界特有の情報管理が存在する領域であり、パッケージの活用は困難であるかもしれないが、今後パッケージ開発が期待されるところでもある。
データリコンシレーションツールは、装置単位から製油所全体も物質収支をチェックし、装置の性能判断やプロセスシミュレーターの基本データ、さらにはオンライン最適化へ接続する機能を持つが、製油所の全体収支や生産バランスという面では、十分に活用されているとは言えないようである。保守・運用に手間がかかるが、その結果をうまく次元の高い業務に利用できていない一面があるのではないかと思われる。

4.5 品質管理

 品質管理領域はパッケージが活用し易い領域であり、2社の製品(IA-LAS、LAB-Aid)で寡占状態になっていることが伺えた。この業務は測定値の保管・検索、自動測定された測定値の集積のほか、製品規格も含めた合否判定、試験成績表の作成等事務効率化を含めたものが対象となる。

4.6 設備管理

 設備管理の領域について、パッケージ運用の進んでいる業務は図面管理と電子文書管理であった。これらは、石油の特異性が小さいため、他の業界も含めたマーケット規模が大きく、多種類のパッケージが利用されている。
自社開発ソフトが主流の領域は、総合保全管理、機器・計装・電気設備の保全検査情報の一元化データベース、資材管理、購買管理である。これらの領域は予防保全や補修費の削減を図るため最近着目されており、統合パッケージも開発されている。ただし膨大な設備・機器が存在する製油所を対象とすると、初期コストが大きく、過去の情報の取扱いや必要に応じた変換などユーザーの負荷が大きいのが実状である。
CBM, RBI, RCM 支援システム、保全業務のQAシステム、全所的なTPM, QC 支援ツールについてはシステム化が進んでいる状況にはない。

4.7 パッケージ運用上の問題点

 パッケージ運用上の問題点について、各領域における質問に対しては、(1)初期コストが高い、(2)実運用までに労力がかかりすぎる、(3)維持費が高い、(4)運用に労力がかかりすぎる、といった回答が多く集まった。従来、石油会社内の人材でシステム構築・維持管理していた際は、人件費で社外へ出て行く費用は表面化しなかったものが、パッケージ導入により、ライセンス費用・維持費用としてクローズアップされるようになったと思われる。また費用対効果を考える際に、省力化や効率化は定量化することが困難な面を持っていることも挙げられる。
パッケージの基本機能をいかに効率よく自社の業務に適用するかについても、業務の流れを自動化することに注力してきた自社開発品とは差異が生じてくる。一部ではこれまで製油所毎に統一されていなかった業務フローを変えることにより、パッケージの導入で統一しようという動きもある。従来に比べコンピューター処理能力飛躍的な伸びにより、使い易いパッケージが開発され、システム開発業務がアウトソーシングされていることが伺える。

4.8 組織上の役割分担

 組織上の役割分担については、本社に比べると製油所では、情報システム部門が主体・支援を担当する分野が多い。
製油所を対象としたパッケージの全社統一や大型システム開発は、本社が全社レベルで検討することが多く、製油所の情報システム部門はスリム化が進み、担当分野が広がる傾向にあると言える。また一部の製油所では情報システム部門を製油所の技術部門に含める事例もあり、情報システム担当者が技術的な領域も含めて対応を求められている状況が伺える。アウトソーシングの傾向は本社と同様の傾向である。

4.9 その他

 その他として、1社複数製油所の会社と1社1製油所の違いについて多少の傾向が見られた。これまでも述べたように、1社複数製油所の場合、ツール統一を進めている状況にある。業務フローの統一を図り、効率向上を目指していることが伺える。ただし、製油所が複数となり、ユーザー数が増えるとライセンス・維持費が高くなり、効率化効果が薄れてしまう懸念もある。また各社の特異性を前提として、独自のシステム開発の方が既存パッケージ機能を上回る領域もあると言える。
逆に1社1製油所の場合は、パッケージ選択の自由度が広がる利点はあるが、1社複数製油所会社の選択によって対象主力パッケージがいくつかに限定されている領域もあり、シェア拡大により独占に近いパッケージは価格高騰やサービス低下につながっている事例も出てきている。また1社1製油所の場合、パッケージ導入・システム開発に割けるリソースに限度があり、実運用までの時間が長くなり、関係者の負荷が高くなる可能性は高い。

5. おわりに

 本社・製油所ともに業務内容が普遍的でうまく適合するかどうかが、パッケージ活用の分岐点と言える。業界・企業・製油所・部門の各レベルで特殊性の強い領域では、自社開発が優位になる。パッケージ導入の主目的は、費用削減・労力削減による効率向上だが、システム構築・運用に伴う負担感がクローズアップされている。
部署の役割分担では、開発・保守を中心にアウトソーシングが進んでいる。現在は、情報システム部門の関与率も低くないが、今後はユーザー主導型に移行するものと思われる。PC レベルでの作業範囲が広がっているが、一方でネットワーク管理やセキュリティー管理が重要と思われる。
活動の反省として、アンケート内容で、設定した業務領域の区分や定義に曖昧さがあり、回答者の判断基準によりパッケージ名や問題点の回答に不整合や矛盾が見られた。今回は、本社・製油所の全業務領域を対象に広く調査を実施したため、分析に限界があり、追加調査・詳細確認・深い分析には至らなかった面はご容赦頂ければ幸いである。
今後の取り組みとして、情報システム分野は日進月歩であり、新パッケージ開発やサービス競争は激化している。特に、1社複数製油所の会社がツール統一でパッケージ評価が進む中、2〜3年ごとに同様の調査を進め、推移を見ることが有意義と思われる。
最後に、膨大な設問に関してご回答いただいた石油会社の関係者の方々にこの場をお借りして御礼を申し上げます。

 

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