平成14年度経営情報部会WG活動成果報告

WG2 知識・ノウハウの共有化に関する調査研究−知識・ノウハウの伝承に関するまとめ−

参加メンバー: 植木和夫(山武産業システム)、佐々木 研(新日本石油)、白川義之(ジャパンエナジー)、本間 章(東洋エンジニアリング)、本田達穂(横河電機)、高橋正成(東洋エンジニアリング)、斎藤三千夫(出光石油化学)、本間紀夫(鹿島石油)(敬称略,50音順)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2003年3月現在のものです。

1. はじめに

 石油精製・石油化学業界におけるナレッジマネージメント(KM)の活用事例として海外ではブリティッシュ・ペトロリアム社の油田火災への対応、ダウ・ケミカル社の特許管理、国内では三菱化学(株)横浜研究所の活用などが著名である。 これらは限定された業務でのKMの成功事例であるが、KMは (1)グループウェア、(2)ポータルサイト、(3)CRM(Customer Relationship Management)、(4)SFA(Sales Force Automation)、(5)ERP(Enterprise Resource Planning)等、広く知的労働の生産性を高めるキーテクノロジーとして期待されている。 このような背景において、当WGに参加したメンバーの具体的な活動目的は、(1)情報検索方法の調査、(2)石油業界における情報共有状況の把握、(3)装置運転ノウハウの伝承方法の調査、(4)石油企業等で全社的に共有すべき情報の調査、(5)同じ問題を抱えるメンバーとの技術交流等、であった。全ての活動は物理的に困難であったので、これらの共通部分として、(1)KM事例の調査、(2)市販のKMツールの調査、(3)システム導入時の進め方(成功例、失敗例)の調査等を実施した。調査結果も、参加メンバーの共通的な課題である「知識・ノウハウの伝承」に焦点を絞り込んで整理した。これらの結果を以下報告する。

2. 特徴、ニーズの背景、現状の問題点

2.1 「知識・ノウハウの伝承」のためのシステム構築の特徴

  1. 同じ部門内における情報共有であり、キーワードや用語が情報の共有者間で共通なので、高度な汎用性を必要としないという点では、構築が容易である。
  2. システムの目的がはっきりしている。
  3. 知識・ノウハウを提供すると自分の存在価値が低下すると言うドライビングフォースが働く。
  4. 業務に不可欠なツールとして導入し、知識・ノウハウが自然に蓄積できる仕組が必要。

2.2 ニーズの背景

2.2.1 目的

  1. 高齢化の進展、転職の増加等による退職者が出ても困らないようにすること。
  2. 新人の早期戦力化。
  3. コンピューター化の推進による業務効率の向上。
  4. 仕事の品質を保証するためのミスの防止。

2.2.2 業務、組織面での問題点

  1. 非定型業務における経験則、コツ、カンどころ(個人に属しがちな「文殊の知恵」)のオープン化、明確化(高度なノウハウ、人脈)ができない。
  2. 欲しいデータが探し出せない。
  3. 誰がどのような資料を持っているか把握していない。
  4. 同じトラブルを何度も繰り返す。
  5. 過去の報告書が生かされない(担当者がいなくなると報告書は紙の山に埋もれる)。
  6. 仮に資料が残っていても、どのように使われたのかという資料の背景がわからない。
  7. 大切な資料は全て個人でファイルしている。
  8. 他人の技術資料を探し出せない。
  9. 失敗事例に関するナレッジの提出をマイナスと捉えてしまう企業環境(失敗事例の分析ほど有効なものはない)。
  10. すぐに成果の出せる手軽なものと勘違いしている。
  11. 検索ツールなど、ツールの導入と勘違いしている。

2.2.3 ツール、システム面での問題点

  1. KMという概念はあるが具体的な仕組と活用方法は個別に検討するしかない。
  2. データベースと検索システムを柱とする基本構造であるが、どのような知識をどのよう な形でデータベース化していくかが明確になっていない。
  3. 効果の定量化が難しい。
    例)回答に要した時間/助かり時間=>費用対効果
    スピードアップ、業務のクォリティーの向上
  4. ナレッジが集まらない。
  5. 利用することにより重複作業が発生する。
  6. 余分な機能が多すぎる(システム部門主導のシステム構築)
  7. 登録したはずの宝のデータを確実に入手できない。
  8. 隣の部署のゴミデータ、再利用性のないゴミデータ等ばかり抽出してしまう。
  9. 業務フローに入れ込むことを前提に設計しているシステムが少ない。
  10. キーボード入力を極力減らしたシステムを構築する必要がある。
  11. バグや改善案がある場合にユーザ側で簡単に改良できるようなシステムではない。
  12. システム主導のツールはプログラム技術に走り、本来の目的が不明瞭になっている。
  13. 無駄な情報が多い(陳腐化したナレッジが削除されない)。
  14. あれもこれもと収集すると価値の低いものまで集まってしまう。
  15. 個人の知識が組織の知にならない。
  16. 活用されない。続かない。
  17. 蓄積・流通の段階で有益なナレッジが欠落してしまう。
  18. 提供者から利用者への一方通行(情報の流れが一方向だとブラッシュアップができない)。
  19. ナレッジの質をキープする仕掛けがない。
  20. 知識の提供が業務として評価されない。

3. 仕組みに必要な機能

3.1 業務ルーチン化(自然に蓄積・標準化)

  1. 退職時に退職者から情報、知識、ノウハウを引き出すのではなく、日常業務において、自然に蓄積されていく仕組が不可欠である。
  2. 蓄積する内容は、標準化が必要。
  3. ナレッジの登録が容易にできる仕組みが必要。
  4. 仕事を始める前にシステムを検索情報収集するなどの仕事のルール化が必要。
  5. 定常業務で蓄積される有用データ用DBとそれらを標準化してまとめたものを蓄積するDBが必要。

3.2 知識・ノウハウの加工度に応じたレベル分類

定期的に知識の集約、加工を行う等して、知識・ノウハウの整備を行い、それらも一段上のレベルの情報、資料として検索対象にする。

4. 仕組の構築方法、手順

4.1 「構築方法」

  1. ユーザー部門が中心となってシステム構築する。
  2. 便利な検索システムへの指向。
  3. 強力な検索エンジン(学習機能や履歴保持機能を含む)。
  4. 充実したシソーラス(辞書・ツリー構造)。

4.2 「形式知とする方法」

  1. 書類作成業務フローに合わせたシステムを構築する。
  2. 具体的な書類作成手順を明確にする。
  3. 文字はできるだけ少なくする。
  4. キーワードの上手い選定を行う。

4.3 「活用させる方法」

  1. 活用しないと朝から、1日中仕事ができない仕組として、職場に導入する。
  2. 10〜20年かける覚悟であれば新入社員から活用を義務化することにより抵抗勢力への対策とする。
  3. 記入された情報に対して、上司がコメントなどの応答を行う。
  4. システム利用のスタートはトップダウンで始める。
  5. 利用して便利さを感じるシステムを構築する(欲しいデータが確実に入手できる)。
  6. 個人便利ツールとして使わせる。
  7. 少人数から利用を始めて徐々に広げる。
  8. 簡単なところから始める。
  9. 報償制度を設ける。
  10. 知識囲い込み風土の脱却(独特な知識や機能を会社の財産として重視する風土)。
  11. 知識共有に投資を惜しまない。
  12. 知識共有・活用がスムーズにできるよう権限委譲(命令に従って仕事をこなす歯車とならないようにする)。
  13. 風通しのよい仕事場づくり(自由かっ達な意見交換が可能)。

4.4 「KMを具体的に実践させる方法」]

  1. ナレッジ・マネジメントの役割を決める
    ・必要とするところはどこかを明確化する。
    ・当事者から現状ヒアリングをする。
    ・KM担当者や入力サポート者の役割を明確にする。
  2. 知識プロセスを設計する
    ・全体像の洗い出しからナレッジ体系としてまとめる。
    ・「情報」から「知識」化する工程を考える。
    ・情報蓄積と有効利用のための業務プロセスの改善をする。
  3. 対象範囲の考え方の明確化にする
    ・何に関する知識データベースとしていくかを明確にする。
  4. 知識レベルの分類
    ・単なる情報・文書等の保管と、テーマを立てて幾つかの情報や資料から加工したのとはレベル分けをして管理する形態の明確化。
    ・蓄積されるナレッジの棚卸し、評価、洗練のプロセスを定着させる。
  5. 知識、ノウハウへの情報を加工して登録。
  6. 教育・研修など運営のための施策を実施。
  7. 活用の徹底。
  8. 導入効果を測定し、次なる戦略を策定する。

5. 注意事項

5.1 落とし穴

  1. 自分の頭で考えることが最も重要であることを認識すること。
  2. システム部門に丸投げせずにユーザー部門が中心となってシステムを導入すること。
  3. システムはKMを支える道具にすぎないと認識すること。

5.2 ツールだけ導入しても成功しない

  1. Plan→Do→Check→Actionを具体的に考える。
  2. 使われていない機能や使わない人にその理由を聞いて対策案を考える人が必要。
  3. 要望やコメントはその場で収集できる仕組みを作り、定期的にそれらを反映する。
  4. トライ&エラーの繰り返しができる仕組みが必要。

5.3 範囲・用途のフォーカス

  1. 導入の際の対象組織、グループの範囲、規模の設定、およびどんな知識内容に絞るのか。
  2. 登録情報、データは本当に再利用性が高いか?
  3. 適用範囲、登録データの基準などが明確であるか?

5.4 万全なメンテナンス体制

  1. 極力セルフサービス化を進めるとしても、メンテナンスのための一定のマンパワーが必要。
    例:入口でインプットの是非を判断する役割の者(ゲートキーパー)。
  2. シソーラスの管理者と更新担当者が必要。
  3. 検索履歴を分析して強化拡充すべき知識分野を特定する者が必要。
  4. 強化拡充すべき分野のインプット促進の宣伝活動を行う者が必要。
  5. 上記について十分なマンパワーを常時投入しなければならないので、応分の運用コストが必要。

5.5 参考(ナレッジ提供の報酬に関するアンケート)

  1. 時間さえあればよい(45%)
  2. 利用者からのフィードバックが欲しい(40%)
  3. 人事評価を上げて欲しい(7%)
  4. 賞金(7%)

5.6 本音

  1. フェースTOフェースの場で顔見知りになること。
  2. 共感(信頼感)の育成=>
    いろいろあるけれど、実は…を教える気になるかどうか。

6 構築事例

6.1 成功例(成功させるためには)

  1. 経営トップの強い信念、継続、場の提供(トップの強い信念とは?場を提供とは?)。
  2. 現場に役立つこと。
  3. フィードバックの制度(運用フィードバック OR インセンティブ?)。
  4. 専門化の配置(知財部)(良いナレッジの紹介)。
  5. ナレッジリーダーの育成。

6.2 失敗例(失敗の原因)

  1. 活用範囲のフォーカスを広げすぎた(何でもいいからとにかく入力した)。
  2. 検索機能が貧弱(必要なものがヒットしないので次第に使用しなくなった)。
  3. メンテナンスに労力をかけなかった(入口で内容のチェックを十分に行わなかった)。
  4. 目的が不明確。
  5. ツールを導入すれば上手くいくという安易な先入観。
  6. 人間同士の対話として取り扱っていない。

7 おわりに

 KM用語の中に、「共同化」、「表出化」がある。「表出化」は、経験や知恵等、個人の内部にある「暗黙知」を図や文章で表現される「形式知」への変換作業である。本報告の内容はまさに表出化作業の成果物である。また、この表出化作業の過程ではメンバー間でいろいろな意見交換やディスカッションを行ったが、これは、まさに暗黙知をメンバー間で共有する共同化作業である。当テーマの活動を進める中で我々は、KMの本質の一端を体験することができことになる。上記の表出化作業の成果は、結果的には各種参考書に記述されている内容と同様のものとなったが、大半が参加メンバーの経験に基づくものである。KMの検討の際に少しでも役立てて頂ければ幸いである。

 

部会活動経営情報部会|トップページへ