平成13年度経営情報部会WG2活動成果報告
WG2 製油所情報システムのDBのあり方
参加メンバー: | 主査 今元典夫(横河電機)、伊藤昭彦(富士石油)、白川義之(ジャパンエナジー)、鈴木康央(山武産業システム)、塚田広美(日石三菱)、本間紀夫(鹿島石油)、前川博幸(コスモ石油)(以上,7名) |
*メンバーの所属および下記成果報告書は2002年3月現在のものです。
1. はじめに
情報システムにおけるDBの重要性は"DB一元化""DBメンテナンス"等、何時でも話題の中心になりながら、学術議論は抽象的であり、実システムに有効なアクションまでに繋がらないことが多く、又アプリケーションから見た具体的なDB構築の考え方についての有効な文献も数少ない。過去の情報システム構築ではDBに要求する基本的なことは当然念頭にあり、コストパフォーマンスなど熟慮の上設計したものであろうが、現実には課題の多いシステムとなっているのも事実である。
理由は、IT技術が未熟であり、情報システムを経営に利用する意識が薄かったと言える。近年のコンピュータ能力・通信技術・モバイル技術の飛躍的な進歩によりもたらされたIT革命は、これからの企業経営において、情報システムを如何に位置付けるかが、重要なポイントとなる。このような背景の中で、製油所システムを考えた場合、今までのような製油所業務の効率化のみを目指すのではなく、企業全体の効率化・経営への寄与を念頭に考える必要がある。
各石油会社は、製油所の近代化工事以降、既設計算機のリプレースも間近に控えた時期であり、明確な設計思想の元に構築して行かねば再び過ちを犯す可能性がある。このような状況下、石油学会経営情報部会WG2では「製油所情報システムのDBのあり方」と題して、現状の課題と今後の有るべき姿を検討した。
2. 従来の製油所DBの考え方
従来の製油所情報システムは下記のように、製油所だけを考えた設計となっている。
- 製油所内業務の効率化を目的
本社には実績データをバッチで送る薄い関係であり、あくまでも製油所情報システムの目的は製油所内業務の効率化であり、全体最適化を考慮したものでない。 - システムの都合のよいシステムとDB構造
導入当初、コンピュータ資源は高価であり、メモリー/ハードディスク資源の節約、パフォーマンス重視の観点で設計されている。 - データ種別単位でのDB分割
- 製油所内上位/下位システムとの連携を重視したDB設計
製油所内上位/下位システムとの連携を重視したDB設計であり、本社ニーズを考慮したものでない。 - ユーザ部署ニーズによる縦割りシステム設計
結果、製油所システム内、同一システム内で重視データが存在 - データ利用面
・本社ニーズ(経理、物流、品質、在庫、生産等)に加工して送信
・製油所内ユーザニーズは、DBからデータを読み込みプログラム処理にて対応
この背景として、当時のIT技術未成熟も一つの要因としてあげられるが、全体最適の観点から製油所及び本社の業務・システムを設計する組織体制でなかった事が大きな要因である。結果、必要なスキルを持った人もいなかった。
図1 従来の製油所データベースの考え方
3. 今後の製油所情報システムに求められる要件
製油所情報システムに求められる基本事項は、従来通りの安全管理と業務サポートであるが、今後は下記の要件が求められる。つまり、SCMを代表とする本社ニーズのとり込みとユーザフレンドリーなシステムとし、全社経営に活用できる情報システムとすることを視野に入れた製油所情報システムを構築する必要がある。
- 全社最適システムの構築(本社ニーズへの対応)
決算早期化、SCM,環境会計、経営情報システム、ERP連携など - 有効活用(ユーザニーズへの柔軟で迅速な対応)
・EUCの実現
・EXCEL等のPCアプリケーションのデータ連携 - 理部門との情報の共有化及び本社管理部門の情報活用
・本社管理部門のシステムも含めた全体設計
・本社管理部門と製油所部門が同じデータを参照可能とすることで、業務の効率化、スピードアップ
4. 問題解決へのアプローチ(あるべき製油所システム)
4.1 全社最適システムの構築(本社ニーズへの対応)
ERPシステム導入/合併/提携/老朽化対応などをトリガーとした、本社基幹系システム再構築が各社盛んに行われている。一方、製油所システムはERP適用が困難な状況であり、本社システムとの連携のあり方が問題となっている。システムを経営に最大限に生かす為には、本社ニーズから製油所システムに求めらることを分析し、全社システム最適化を目指す必要がある。
企業を取り巻く環境(=本社ニーズ)
a.環境変化への迅速な対応(決算早期化、SCM)
b.外部評価機関への対応(環境会計、連結決算)
c.企業全体の競争力強化(更なる要員削減、システムコスト低減)
↓実現するには
企業全体の最適なビジネスフローの構築
それを支援する全社最適なシステムを安価に構築
4.2 情報の有効活用(データの持ち方)
- 現状のデータの持ち方
ユーザニーズに迅速かつ柔軟に対応するため、データの持ち方がある。受払いバランスを取りたい場合、従来のデータベース内容では、帳票等へ出力する場合、その目的により、Fromまたはtoをプログラムにより意識して読み替えを行っている。これではユーザにデータを開放しても複雑なプログラミング技術を必要とすることから、EUCは一部のパワーユーザに留まってしまう。EUCを実現するには、誰でも簡単にプログラムレスで手元にデータを取り出せる仕組みが必要である。 - 今後のデータの持ち方
EUCを実現するためには、ユーザフレンドリーなツールの選択とユーザニーズを分析した使い勝手の良いデータベース設計が重要である。受払いバランスを取りたい場合、From装置=VPを意識するだけで意図するデータを取り出すことが可能となる。
4.3 情報の有効活用(OLAPの利用)
図2にあるように、EUCツールとしては、近年注目されているOLAPツールを利用し、上記のようなDB設計を行うことにより、ユーザが自由にデータ活用が可能な環境ができる。従来のように都度プログラムを組む必要がなく、ユーザニーズへの柔軟かつ迅速な対応が可能となる。
図2 OLAPの特徴
5. 製油所データベースのあり方
上記要件を達成するには各製油所の既設システムにより異なるが、一般に下記事項があると考えられる。
(1)基本設計思想
新規製油所のケース等、基幹系と情報系の分離には異論があるかも知れないが、レガシーシステムの存在、メンテナンスへの柔軟性が重要ポイント等、現実的な設計思想として分離とする(表1参照)。
表1 基本思想(基幹系と情報系の分担)
基幹系 | 情報系 | |
本社 |
|
|
製油所 |
|
|
(2)今後の製油所データベースのあり方
図3に今後の製油所データベースのあり方を示す。そのポイントを下記する。
- 基幹系と情報系の分離
- 本社ニーズを取込んだ全社最適の観点での設計
- ユーザフレンドリーなツールの選択とユーザニーズを分析した使い勝手のよいデータベース設計
図3 今後の製油所データベースのあり方
6.おわりに
多くの場合、製油所はプロコン更新など製油所ニーズを優先してサーバに移行していくが、ネットワークが発達した現在、極論だがそのDB構成は本社/製油所からの業務に対応できるDBが存在すれば、どこにあっても良い。今後の製油所での主な業務は製油所DWHを通じて行うことを前提とすれば、その設計は
- システム導入目的の明確化(何をやるのか)
- ユーザ運用の明確化
・どの業務をするのか、・出力をどう出したいのか、・データの見る切口は何か
である。つまり、この仕事の基本的な手順を踏めば自ずと目的である理想的なDB設計[DBの持ち方(ファイル分割)、必要データ、保存期間、DB構造等]は達成できる。WG−2の課題である"製油所情報システムDBのあり方"の結論は、システム設計の進め方の基本である、「目的の明確化」を考えることであるという、言わば当然の結論となった。さらに言えば、まずシステムを忘れて"何をどうしたいの?"を深考することが、最も重要な事である。今回、WG−2は、現状の課題の調査、競争力強化のための今後の高度ニーズの洗い出し、本社/製油所DBの構成、DWH設計の留意点を述べたが、このコンセプトを明確にすることが最も重要なことであり、これ以上の追求は具体的な業務見直しのための、標準化・管理項目・切口等に入りこむことになりここまでの検討に留めた。
環境変化によるニーズの高度化、システム技術の発展で、情報システムが真に期待され、またできる時代となり、本報告は情報システム再構築の方向性を示すもので、石油各社の情報システム再構築へのフォーシングパワーとなると確信する。
|部会活動|経営情報部会|トップページへ |