平成13年度経営情報部会WG1活動成果報告
WG1 携帯端末の最新技術の動向調査−石油産業への適応可能性を探る−
参加メンバー: | 生田誠司(山武産業システム),市毛弘宣(出光石油化学),大塚 智(横河電機),岡 文一(東洋エンジニアリング),桜井国幸(日揮),難波乗安(昭和シェル石油),森田佳幸/米山 徹(千代田化工建設)(以上,8名) |
*メンバーの所属および下記成果報告書は2002年3月現在のものです。
1. はじめに
WG1においては2000年度に引き続き、「携帯端末の最新技術の動向調査」をテーマとして継続した。一般的にDog Yearと称される技術進歩の早いIT技術のなかでも、携帯端末の技術進歩と製品化の速さは目覚しいものがある。
今年度は現在注目されている無線技術である近距離ワイヤレス通信規格”Bluetooth”と第3世代デジタル移動通信方式”IMT2000”の技術がどのように石油産業に応用できるかの検討を行った。相変わらず、製油所など製造現場においては、「防爆仕様」が問題となり、進展が見られなかったが、SSなど中小口の現場の充填、荷卸を含む業務系への適用を考えた場合、無線による情報伝達の利点を最大利用した業務改善の可能性を見出すに到った。調査検討の詳細はページ数の関係で割愛させて頂く。
2. はじめに
Bluetoothとはモバイル端末搭載用を指向した近距離ワイヤレス通信規格を指す。Bluetoothは1994年にエリクソン社がそのコンセプトを提唱し、その後1998年にエリクソン/ノキア/東芝/IBM/インテルに5社によってBluetoothコア技術の規格制定および開発が行われている。但し、Bluetoothの技術に関しては上記5社の独占技術という扱いではなく広く多くの企業、団体の利用及び推進、規格化・技術開発への貢献を目指しBluetooth Special Interest Group (Bluetooth SIG)を構成し、本規格に賛同するものはBluetooth SIGに登録(費用無料)することによって全ての技術情報・規格等がLicense Freeで得られる仕組みになっている。従って現在では2400以上の企業、団体がBluetooth SIGに登録されている。Bluetoothはモバイル携帯端末搭載を指向した通信技術であるが、その技術的特徴・優位性への関心が高く単にモバイル環境への適用だけでなくいままでワイヤレスネットワークとは関係のあまりなかった業界からも指示を得ている技術である。例えば家電製品やデジタル電子機器がBluetoothを介してワイヤレスで接続・利用されることも実現されつつある。また、Bluetoothはグローバルで規格化されているためいずれの国においても単一製品が利用できるということも注目すべき点である。いずれにせよ携帯電話やPDA、モバイルPCなど非常に身近になったモバイル環境がBluetoothによって更に発展されるとともに、いままであれば便利だと思っていたような用途への応用が期待できる。
BluetoothのワイヤレスPAN(Personal Area Network)領域での具体的な応用例としては主にWAN(Wide Area Network)との音声・データアクセスの無線化手段として、携帯電話を中心とし、各種端末がBluetoothにてワイヤレス接続される。例えば携帯電話−PC、PDA、プレーヤー、デジタルカメラ等があげられる。もう一つは現在の有線ケーブルをBluetoothへ代替する応用例である。PC-プリンタ、キーボード、マウス、LANへのアクセスポート等があげられる。また、ワイヤレスHAN(Home Area Network)・LANへの応用として家電製品間の情報制御(ホームオートメーション、セキュリティの通信手段)、リモコン端末の共通化・インテリジェント化、Ethernetの代替もあげられる。
3. IMT-2000
1990年代、携帯端末やノートPCの普及に伴いモバイルインターネット接続のニーズが高まった。データ通信速度の向上と、増加する利用者に対応して周波数利用効率を高めるためITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)で制定された新しい規格がIMT−2000(International Mobile Telecommunicatins-2000)である。IMT-2000では2GHz帯の周波数を用いて車速で144Kbit/s、歩行速度で384Kbit/s、屋内で2Mbit/sの通信を可能にするとともに世界規模でのローミングやハンドオーバー時の無瞬断化も可能にしている。これは第三世代デジタル携帯電話の規格であるが、その実現方式として日欧企業連合(NTTドコモ、エリクソン、ノキア)が提案するW-CDMAと米国企業連合(クアルコム、モトローラ、ルーセントテクノロジ、ノーザンテレコム)が提案するcdma2000がある。携帯電話の通信方式の一つであるCDMA(Code Division Multiple Access)方式はその両方に採用された。事業者はCDMA方式を採用する際、無線部分に3つの選択肢があり、それらはDS-FDD方式(W-CDMAの無線部分)、MC-FDD方式(cdma2000の無線部分)とTDD方式(欧州案WDCMAの無線部分)である。
また、IMT2000では、CDMA方式以外に従来のTDMA(時分割多重接続)方式(EDGE:Enhanced Data Rates for Global Evolutionに統一)も採用されている。 各方式の比較表を表1に示す。国内では、W-CDMAとcdma2000が使用され、TDD方式は欧州で導入される予定である。
表1 携帯電話方式比較
W-CDMA 日欧方式 |
cdma2000 北米方式 |
EDGE/UWC136 従来方式 |
|
概 要 | DSCDMAとTDCDMAの総称多くのエリアでDSCDMAが採用される予定。GSMをベースにNTTを中心に開発されたW-CDMAに欧州UTRAとcdma2000のDSCDMAが相乗りした。従来の無線方式との共通化をやめ、最適設計で広帯域、高速通信速度を実現 | クアルコムが開発したCdmaOneを高速化したもの。 一般的にMC-CDMAを指す。周波数帯2GHz帯のMC-CDMA1xとMC-CDMA1xを3つ合わせて使用するMC-CDMA3xがある。 | GSMのパケット交換方式GPRSの改良版。従来型のTDMAを適用。データ用であるが、VoIP技術で音声にも対応。従来のインフラを利用することで投資額が少ない。 |
有線接続方式 | GSM MAP ANSI-41も可能 | ANSI-41 GSM MAPも可能 | 従来のGSM IPネットワーク |
方 式 | W-CDMA | MC-CDMA1x、MC-CDMA3x、HDR | EDGE |
多重接続の方法 | 上り下り非同期CDMA | 上り非同期、下り同期のCDMA | TDMA(PDC、IS-54、GSMと同様) |
拡散帯域幅MHz | 5 | 1.25 | 0.2 |
符号速度 Mcps | 3.84 | 1.2288 | ― |
音声符号化方式 | AMR (1.95〜12.2 kpbs) | EVRC(0.8〜8 kbps), SMV | ― |
最大通信速度 回線交換 |
64 kbps x N (N = 1〜6程度) | 64 kbps x N (N = 1〜2程度), MCCDMA3x 2 Mbps | ― |
最大通信速度 パケット交換 |
2/2 Mbps(将来) | MCCDMA1x 144/64 kbps(開始時) | 384 kbps |
下り/上り | 384/64 kbps(開始時) | HDR 2.4 Mbps(平均600)/153.6 kbps(将来オプション) MCCDMA3x 2 Mbps(将来オプション) |
― |
デュプレックス方式 | FDD | FDD | ― |
フレーム長 msec | 10, 20, 40, 80 | 5, 10, 20, 40, 80, HDR 26.67 | ― |
1次変調 下り/上り | QPSK/BPSK | QPSK/BPSK | ― |
2次変調 下り/上り | QPSK/HPSK | QPSK/HPSK | ― |
電力制御 | 上下ともあり 1500回/秒 | 上下ともあり 800回/秒 | ― |
拡散符号化系列 下り | (1) スクランブリング・コード 基地局の選別 (2)チャネライゼーション・コード 端末の識別、1セル内のチャネルの分離など |
(1)Walsh符号 1セル内チャネルの分離など (2)長周期PN 送信情報の暗号化など (3)短周期PN 基地局の選別 |
― |
拡散符号化系列 上り | (1)スクランブリング・コード 端末の選別 (2)チャネライゼーション・コード 高速データ通信時に端末が複数の直交したチャネライゼーション・コードを利用 |
(1)Walsh符号 1端末内チャネルの分離など (2)長周期PN 端末の選別、送信情報の暗号化など (3)短周期PN 基地局の選別 |
― |
レイク受信機の数 | 実装の規定なし、4程度を想定 | 最低3 | ― |
基地局間同期 | 同期/非同期どちらも可 通常は非同期 |
同期 | ― |
周波数利用効率 | PDCの2倍以上 | PDCの2倍前後 | ― |
1 MHzあたりの 加入者容量 |
40〜80万加入 | 40〜50万加入 | ― |
メリット | 帯域が広い | CdmaOneの設備を使用可 | 既設GSMのインフラを利用できる |
デメリット | 高い初期投資 | 基地局間同期のため地下などへの基地局設置が困難 | ― |
4. 石油産業への適応分野と携帯端末利用可能性
石油製品の運送用ローリー車に、GPS(Global Positioning System)・車載PC・タコグラフ装置・Bluetooth端末の各コンポーネントを組み合わせた車載一体化デバイス(車載装置)を搭載することを想定した。また輸送者(ローリー・ドライバー)は輸送者IDともなりうる携帯電話(IMT2000とBluetooth対応)を持ち、作業イベント情報(開始・終了など)は、この携帯電話から輸送者により即時伝送されることとした。
この車載装置と携帯電話、「ローリー運行管理システム」などの後方システムとの連携で、効率的なローリー稼動の即時状況確認と到着予測時間の提供、製油所(出荷基地)およびSS現場における荷積みと荷卸作業の効率化と安全性向上に寄与できると考えられる(図1)。
5.おわりに
2000年度、2001年度の2年間に渡り、携帯端末技術とその動向を調査してきた結果、携帯無線技術は所詮有線通信インフラストラクチャーの上に立脚したものであるため、その応用事例の検討においてはそれら有線通信インフラストラクチャーによる制約が存在することを改めて認識した。そのため、今後の携帯端末を利用した情報技術の適用検討には各種通信インフラを利用した有線技術と無線技術の融合検討が不可欠であるとの考えに到った。そのため来年度は「携帯端末」の調査対象範囲を拡大し、有線情報通信技術に関する内容も網羅した「移動体通信技術」の調査検討を続けていくべきテーマとした。
尚、調査にご協力頂きました、横河電機(株)様、日本電気(株)様、(株)NTTドコモ様には心より深謝致します。
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