学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

二酸化炭素水素化によるメタノール合成用銅亜鉛系触媒の活性点構造の解明と高性能化

 

藤谷 忠博 殿((国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 総括研究主幹)

 藤谷氏は,二酸化炭素の水素化によるメタノール合成のための触媒に関する研究に取り組み,触媒活性点構造や作用機構の解明,高性能触媒や触媒プロセスの開発について多くの成果を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 二酸化炭素水素化に銅亜鉛系触媒が有効なことは,合成ガスからのメタノール合成プロセスと関連して以前から知られていたが,その活性点や作用機構の解明は十分なされていなかった。藤谷氏は,高性能触媒の開発には,それらを解明することが重要ととらえ,表面科学的手法による研究を進めた。具体的には,Znで修飾したCu単結晶表面を調製し,これらをモデル触媒として超高真空から30気圧程度までの極めて広い圧力条件下での研究を展開したことが特徴的と言える。ここでは,X線光電子分光法,高感度赤外反射吸収分光法,走査型トンネル顕微鏡などの表面科学的手法を駆使して,表面構造,吸着種や速度論の解析に関する研究を系統的に行い,成果として,比較的低い被覆率(〜0.15)でZn修飾したCu(111)表面が高い触媒活性を示した。また,このとき二酸化炭素水素化反応条件下でもZnが金属状態を維持し,ここで形成されるCu-Znサイト上に吸着したフォルメートを反応中間体として,メタノール合成反応が進行することを明らかにした。さらに,担持触媒を用いた研究も同時に実施し,Cu/SiO2とZn/SiO2の物理混合触媒を,適切な温度で水素還元すると触媒活性が向上することを見出し,活性向上と,Cu-Zn合金形成を示すCuの格子定数増大の挙動が良く一致することから,担持触媒においてもCu-Znサイトが活性点であることを示した。これらの成果を踏まえて,CuイオンとZnイオンが原子状で混合している炭酸水酸化物であるオーリチャルサイト((Cu,Zn)5(CO3)2(OH)6)を前駆体として調製したCu/ZnO触媒が,原子状で混合されていない前駆体から調製した触媒と比較して,高い触媒活性を与えることを示し,Cu-Znサイトを効率よく形成させる方法を提案した。また,これらの基礎研究での成果を活用した実用レベルで使用可能な銅亜鉛系触媒の開発を目指した。そして,ZrO2,Ga2O3およびAl2O3を添加することで長時間にわたり安定な活性を示す触媒の開発にも成功し,スケールアップのためのプロセスデータの取得も行った。
 以上のように,藤谷氏は,二酸化炭素水素化によるメタノール合成触媒について,表面科学や触媒化学などからの多面的なアプローチにより,触媒活性構造を解明すると同時に,それらを高性能触媒の開発に結びつけるという優れた成果を挙げた。これらの成果は,表面科学と触媒化学という学術的分野の連結を強めるだけでなく,今後の二酸化炭素の変換プロセスの実用化に貢献し,石油・石油化学産業の発展に資することが期待される。
 よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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