学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

遷移金属を含む2元系金属間化合物の触媒作用に関する基礎研究

 

小松 隆之 殿(東京工業大学理学院化学系 教授)

 小松氏は,通常の固溶体合金には見られない規則的な原子配列を持つ金属間化合物に着目し,特に第8〜10族遷移金属(Pt,Pd,Ni,Co,Rh,Ru)を含む2元系金属間化合物の触媒特性を解明することで各種反応(水素化・脱水素,異性化,選択酸化など)に優れた性能を持つ金属間化合物を見出している。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 金属間化合物を触媒とするものとしては,水素吸蔵合金(LaNi5,CeCo5 等の希土類系Ni,Co触媒)による水素化反応,工業的にはPdTeを用いた1,3-ブタジエンのアセトキシ化反応,Pd3Pbを活性種とするメタクリル酸メチル合成などが既に知られていたが,ごく限られた合金群と反応系にとどまっており金属間化合物が触媒材料として認知されているとは言い難かった。小松氏は,金属間化合物自身の触媒作用の解明には単一相の金属間化合物触媒を用いた研究が必要と考え,Pt,Pd,Ni,Co,Rh,Ruを含む各種2元系金属間化合物触媒を調製し,それらの触媒特性を評価した。その代表的なものとして,アセチレンの水素化反応に対してCoGeやNi3Sn2が高いエチレン選択性を示すこと,Pt3Geが1,3-ブタジエンの部分水素化によるブテン生成に高い選択性を示すことを明らかにした。また,PtTi3は不活性であるのに対しPt3TiはPt単体よりも高いエチレン水素化活性を示すことを見出し,PtTi3表面ではエチレンが非常に強く吸着し,水素の解離吸着が阻害されるため水素化が進行しないが,Pt3Ti表面ではエチレンの吸着が弱く,表面上で解離吸着水素が容易に形成されるため水素化が促進されることを明らかにした。さらに,cis -スチルベンの水素存在下での異性化に対しRhSb金属間化合物が高いtrans -スチルベン選択性を示すのは、Rh原子が1次元的に配列した特異な構造をもつことで,立体効果を発現するためであることを示した。水素中微量COの選択酸化(CO-PROX)において,Pt系金属間化合物(Pt3Co,PtCu)が100 ℃以下においても優れた触媒特性を示すことを明らかにした。担体としてはSiO2よりAl2O3が高活性触媒の調製に適していること,および反応条件下で金属間化合物の顕著な相分離が起こらないことを見出した。
 さらに小松氏は,触媒材料としての実用化を見据え,各種担体表面に金属間化合物のナノ粒子を形成させることを試み,目的とする金属間化合物を単一相で得るために担持法(逐次または共含浸・液相還元・CVD),金属塩,焼成・還元条件などを検討し,70種類を超える金属間化合物を単一相ナノ粒子の形でSiO2表面に形成することにも成功している。
 以上のように,小松氏は,第8〜10族遷移金属元素を含む二元系金属間化合物をターゲットとすることで単一金属系,固溶体合金とは異なる優れた性能を持つ金属間化合物触媒を多数見出し,金属間化合物が新奇な触媒材料になる可能性を示した。これは,触媒設計の点で,石油・石油化学産業の発展への貢献が期待される。
 よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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