論文賞

セリア担持白金触媒を用いた低温電場中でのエタノール水蒸気改質による水素製造

 

桜井 沙織 殿1),小河 脩平 殿,関根 泰 殿(早稲田大学先進理工学研究科)
(上記所属は論文発表時のものです)

 炭化水素やアルコール類の水蒸気改質反応による水素製造プロセスは,化学工業においてアンモニアの合成や水素化処理用の原料を製造する重要な反応の一つである。改質反応は,非常に大きな吸熱反応であるため,反応を十分進行せしめるためには高い反応温度が必要となる。
 桜井氏らは,触媒床に電場を印加することで熱力学的には進行しない低温で水蒸気改質反応を実現した。具体的には,触媒としてPt/CeO2を用い,熱触媒的には進行しない423 Kにおいてエタノールの水蒸気改質反応が進行することを見出した。印加する電場による消費電力は,1 W程度であり,わずかな電気エネルギーを投入するだけで,熱力学的平衡制約を超えて,エタノール転化率27.4 %,水素収率27.3 %が得られた。また,電場を印加しない熱触媒反応で523 K以下の条件でアセトアルデヒドの選択率が高いのに比べ,電場を印加した系では転化率が増大するだけでなくアセトアルデヒド選択率が減少し,CO+CO2選択率が増大することを見出した。
 桜井氏らは,これら電場印加の効果の内容を検討するために,触媒表面の吸着種の拡散反射フーリエ変換赤外吸収スペクトルを測定した。電場を印加した状態での触媒表面の吸着種を測定しており,in-situ での吸着種を観察している。エタノールの吸着表面では,電場の印加により多量の吸着COおよびCO2が認められ,電場により反応が促進されていることがわかった。アセトアルデヒドの吸着表面でのスペクトルが,エタノールの吸着後のスペクトルと類似していることから,電場の印加によりエタノールからアルデヒドへの脱水素が迅速に進行することを示唆している。アセテート種の吸収ピークも見られることから,電場の印加により反応性に富むアセテート中間体生成が促進されたと考察している。エタノールの改質反応を構成する三つの素反応,すなわちエタノールの脱水素,アセトアルデヒドの分解およびアセトアルデヒドの水蒸気改質について,活性化エネルギーを求め,全ての反応で活性化エネルギーの低下が観測された。
 以上のように,本研究で得られた知見は,水素製造プロセスにおいて熱力学的な制約を超えてより低温で反応を実施できる可能性を示唆しており,工業的に非常に重要でこの分野の発展に大きく貢献するものである。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 59, (5), 174 (2016).
1)(現在)大阪ガス(株)

 

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