技術進歩賞

新型内部熱交換型蒸留塔の商業化

 

若林 敏祐 殿(東洋エンジニアリング(株) チームマネージャー)
長谷部伸治 殿(京都大学大学院工学研究科 教授)

 本技術は,ヒートポンプの原理を応用して,蒸留塔の濃縮部と回収部との間で熱交換を行うことにより,加熱・冷却のエネルギーを大幅に削減する内部熱交換型蒸留塔に対して,製作費,保守・管理を考慮した新しい構造を提案するものである。
 蒸留操作は石油・化学関連産業だけでなく,多くの産業で用いられている重要な分離操作ではあるが,エネルギー消費量が工場内で大きな割合を占めており,競争力強化のために省エネルギー化に向けた技術開発が継続的に行われてきた。ヒートポンプの原理を応用して濃縮部で除去した熱(通常,空気や水にて冷却)を回収部の加熱源として利用する蒸気再圧縮型蒸留塔は,高い省エネルギー性を達成できる技術と期待されたが,圧縮機の適用制限により,分離系の沸点差の制約があった。内部熱交換型蒸留塔(以下,HIDiC)では,濃縮部・回収部を分割し,蒸気圧縮により濃縮部を昇温し回収部の熱源として全ての段間で連続的に熱交換を行わせることにより,圧縮比を抑えた条件でのエネルギー削減の可能性が示され,国内外で多くの研究開発が進められた。その一つ,同心円型充填式の二重管型構造を持つHIDiCは,パイロットスケールによる実証試験が行われて高い省エネルギー効果も確認されたが,非常に特殊な構造による保守・管理の難しさのために商業化には至らなかった。
 若林氏および長谷部氏は,内部熱交換型蒸留について熱力学手法に基づいて改めて詳細に解析を行い,濃縮部と回収部との熱交換を,連続的ではなく分散型(3〜4か所)とし,位置・熱交換量の最適化により理想に近い省エネルギーを達成できることを見出した。これにより,従来の蒸留塔と同等の塔構造を保ちつつ,汎用機器を用いたサイド熱交換構造を実現した。製作費の低減だけでなく,保守・管理が容易で,中間製品抜出や複数原料供給への対応も可能となり,適用できる対象が大きく広がった。
 本技術は,アルコール・ケトン製造装置内の蒸留塔(16.0 t/h)に適用され,2016年8月の稼働開始より安定運転を継続し,55 %を超える省エネルギー性能を達成している。本技術の導入検討に必要となる原料組成,製品条件に対するプロセスの適性,およびPonchon-Savarit法に基づく熱交換位置と熱交換量を含めた設計手法は学術論文の形で報告されており,普及に向けた情報公開も積極的に行われている。
 以上のように,若林氏および長谷部氏は汎用機器を用いた新しい熱交換方式のHIDiCの商業化に成功し,その技術の普及に向けた道筋を造り上げた。
 よって,本業績は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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