奨励賞(スウェージロック賞)

不飽和カルボニル化合物およびアミノ酸の選択的水素化触媒の開発

 

田村 正純 殿(東北大学大学院工学研究科 助教)

 田村氏は,カルボニル基の選択的水素化の研究に携わり,不飽和カルボニルからの不飽和アルコール合成ならびにアミノ酸からのアミノアルコール合成において優れた業績を挙げた。
 不飽和カルボニル化合物のカルボニル基の選択的水素化は,一般にカルボニル基よりもオレフィンの水素化の方が進行しやすく,特に固体触媒によるα,β-不飽和カルボニル化合物の選択的水素化は反応の制御が困難であったが,田村氏が開発した触媒はいずれも高活性でかつ高選択的な反応成績を示す特徴がある。たとえば,不飽和アルデヒドの選択的水素化においては,水中で90 %以上の選択率で不飽和アルコールを合成する ReOxで修飾したIr/SiO2 触媒の開発に成功した。本触媒は,バイオマスから容易に誘導できるフルフラール類の水素化を99 %の選択性で進行させ,近年研究開発が盛んなバイオマスからの有用化学品への変換プロセスにおいて重要な触媒の一つとして期待される。
 さらに田村氏は,貴金属と金属酸化物との組み合わせからなる触媒開発を系統的に行い,触媒をMoOxで修飾したIr/SiO2触媒,NbOxで修飾したIr/SiO2触媒,Feカチオンで修飾したIr/MgO触媒へと展開し,不飽和アルデヒド化合物のみならず,一般に選択的水素化がより困難とされる不飽和ケトン化合物に対しても有効な触媒の開発に成功した。また,これらの触媒の構造解析ならびに反応速度解析から,Ir金属と金属酸化物との界面で水素の不均等開裂が進行する反応機構を提唱した。この水素の不均等開裂を伴う反応機構はカルボニル基を有利に水素化できる反応機構と解され,その発現因子は今後詳細に明らかにされるものと期待される。一方,アミノ酸のカルボキシ基の選択的水素化においては,Rh-MoOx/SiO2触媒が有効で,アミノアルコールを高収率でかつ高光学純度で得られることを見出した。
 以上のように,田村氏の研究成果は,不飽和カルボニル化合物およびアミノ酸の水素化反応において優れた反応活性と選択性を示す触媒の開発に関するものであり,同分野の技術発展に大きく貢献するものである。
 よって,同氏の業績は本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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