学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

酸化鉄系触媒を用いた難処理炭素資源の軽質化に関する反応工学的研究

 

増田 隆夫 殿(北海道大学大学院工学研究院 教授)

 増田氏は,非在来型石油をはじめとする重質油の軽質化に関して,酸化鉄系触媒による水素を用いない新規な水利用接触分解プロセスを提案し,触媒反応工学の観点から一貫した研究を実施して多くの成果を挙げている。その技術の適用先は重質油にとどまらず,廃プラスチックやバイオマス由来の黒液などの難処理炭素資源へと適用先を広げており,資源確保の観点からも有効な成果である。
 重質油などの炭素資源をガソリンや軽油などの燃料に転換するために,高温高圧で水素を添加する水素化分解プロセスなどが用いられるが,必要な水素は天然ガスなどの炭素資源を原料として製造される。特に,重質油は水素の消費量が多くなるため二酸化炭素排出量が高くなり,環境負荷が高い資源ととらえられている。このような背景のもと,水素を用いず,常圧過熱水蒸気から超臨界水雰囲気下で重質油を軽質化するプロセスの提案は,低炭素社会の実現に貢献できる新規技術の構築につながると考えられる。
 本プロセスの構築において,新規な酸化鉄系触媒(CeO2-ZrO2-Al2O3-FeOx触媒)の開発は重要な要素である。本触媒は,活性種である酸化鉄の格子酸素により炭化水素の酸化分解を促進する。消費した格子酸素はジルコニア上の水分解により生成する活性酸素種によって補給されると同時に,副生する水素は重質油に付加される。また,亜臨界条件で流通式反応器を用いた試験によって,コーク生成の抑制と軽質油収率の向上を確認している。重質油分解の反応速度をランピングモデルによって解析し,速度論的にコーク生成を抑制できる反応場であることも見出している。このように,プロセスの構築に向けて,触媒設計と反応解析の両面から開発に取り組んでおり,これらの成果が反応工学の学問分野の発展にもたらした貢献度は大きいと考えられる。
 開発した新規触媒を,オイルサンドビチューメンに代表される重質油のみならず,廃ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート混合物に適用し,軽質油が生成することが確認されている。また,集積廃棄されるバイオマスであるパーム殻熱分解油,下水汚泥,畜産ふん尿からは有用なアセトンなどのケトンが生成することを見出している。このように,処理が難しいとされる炭素資源の軽質化につながる多くの成果を挙げている。
 以上のように,増田氏は,酸化鉄系触媒による水素を用いない新規な水利用接触分解プロセスの開発において先駆的な成果を挙げ,触媒設計と反応解析の両面からプロセスの実用化と反応工学の学問分野の発展につながる成果を挙げた。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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