学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

太陽光と水から水素を製造する高効率光触媒反応系の開発

 

堂免 一成 殿(東京大学大学院工学系研究科 教授)

 堂免氏は,水を水素と酸素に分解するエネルギー変換型光触媒系の開発,特に太陽光エネルギーを用いた水分解反応による水素合成の分野において,世界的に注目され,独創的,かつ研究領域の流れを形成する数々の先駆的な業績を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 微粒子を水溶液中に懸濁する光触媒系では初めてとなる,紫外線によって水分子を化学量論比で水素と酸素に全分解するSrTiO3/Ni/NiO系を実現した。同時に,半導体微粒子からなる光吸収体と,プロトンを水素分子に還元する水素活性点(助触媒)の組合せという,その後のこの分野の標準となる研究手法を提言した。また,イオン交換能を有する層状化合物を基にしたNi/A4Nb6O17 (A = K,Rb)系によって,酸化物光触媒による量子収率10 %での水素合成を実証し,全世界における酸化物半導体を用いた光触媒研究そのものを大きく加速させた。
 さらには,バンドエンジニアリングによって太陽光の主成分である可視光領域にバンドギャップを持つ,Ti4+やTa5+元素を軸とする(オキシ)ナイトライド系ならびにオキシサルファイド系の非酸化物系材料の可視光応答型光触媒としての可能性を明らかにし,その後,RuO2/ZnO:GaNの固溶体粒子の光触媒によって,可視光照射下でも水溶液中懸濁系において水が全分解するという初めての事例を報告した。これらの最外殻電子状態がd10であるZn2+,Ge4+元素の非酸化物でも水分解が可能な事を明らかにしたほか,2段階光励起機構(Zスキーム)によって,太陽光の可視光成分をほぼカバーする650 nmの波長までの光を用いた水の全分解,水素合成を実現した系に関しても,先駆的な成果を創出した。さらには前述の水素活性点(助触媒)において,H+とH2は透過するが生成したO2は透過しない選択透過機能により逆反応を抑制するCrxOy/Rhのコアシェルナノ粒子助触媒と,それを用いた可視光による高効率水分解反応の概念を,その機構解析とともに明確化した。
 最近では,次世代のエネルギーおよび原料として期待される水素の合成を社会実証することを目的とした大型プロジェクトにおいて中心的役割を担っており,光触媒方式によるソーラー水素の実用的な製造の実現を目指して精力的に活動を行っている。ここでは,大規模かつ安価な水素合成を可能にするために光触媒の粒子をシート状に固定する研究を行い,太陽光エネルギーの水素への変換で1 %以上の効率を達成する成果を既に挙げている。
 以上のように,堂免氏は,石油資源に替わり得る新たなエネルギー源の一つである水素を水と太陽光から合成する研究を学術から応用レベルまで幅広く展開してきた。同氏の研究アプローチが世界の光触媒研究者へ与えた影響は非常に大きく,これらの成果によって,「光触媒による水の全分解」領域の第一人者と世界中から認識されている。
 よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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