学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

ゼオライト等の固体酸・固体塩基触媒の特異な性質と新規触媒機能の解明

 

馬場 俊秀 殿(東京工業大学物質理工学院 教授)

 馬場氏は,石油化学分野,ファインケミカルズ等の合成分野で工業触媒として有用であるゼオライト等の固体酸触媒や,固体塩基触媒において,新規で特異な性質と触媒機能の解明を行った。以下に同氏の研究成果についてまとめる。
 第一に,ゼオライト等の活性点と気相水素によって誘起される高活性プロトンの発現,同等の活性点を利用するメタンの活性化によるプロピレン合成等の特異な触媒機能の創出,さらに温度可変1H MAS NMRを用いたプロトンの運動性に関する一連の研究である。Ag+イオン交換ゼオライトは,各種の固体酸触媒反応に対して,水素存在下ではプロトン型ゼオライトよりも格段に高い活性を示す。馬場氏はこの現象を解明するために1H MAS NMR等を用いて解析を行い,プロトンの生成は,銀イオンナノクラスター(Agn+)が関与する水素の不均等解離によって起こることを初めて確認した。また,Ag+イオン交換ゼオライトでは,水素のみならずメタンも不均等解離を起こすことを初めて明らかにした。それは,メタンをAg+イオン交換ゼオライトで活性化し,メタンとエチレンとの反応でプロピレンが生成することにより確認された。また,プロトンがゼオライト骨格の酸素イオン上をホッピングする現象を温度可変1H MAS NMRで確認し,ゼオライト骨格構造の違いによりプロトンの運動性が異なることや,二種のプロトン間で高温では交換反応が起こることを示した。これらの一連の固体触媒のプロトンに関する研究成果は,固体触媒における新しい酸点の考え方,それを用いたアルカン活性化の新しいスキームの提示であり,ゼオライト等の固体触媒を用いた炭化水素の化学変換に関する研究に今後も大きな影響を及ぼすものと期待される。
 第二は,ゼオライトの空洞構造が低級炭化水素に対して発現する形状選択性に関する研究である。明確な空洞構造をもつゼオライト骨格に着目し,空洞容積の異なる種々のプロトン型ゼオライトを用いて,オレフィン転化反応の選択性に与える影響を調べた。その結果,反応中間体であるカルベニウムイオンの分子体積とゼオライト空洞の容積とがほぼ一致したとき,高い選択性を発現することを見出した。この結果は,生成物の選択性はゼオライトの空洞容積と密接に関わるが,酸強度や細孔入口径には依存しないという新しい形状選択性の発現機構を提案したものであり,ゼオライト触媒を利用した低級炭化水素転換反応への種々の応用が期待される。
 第三は,固体超強塩基触媒による効率的炭素‐炭素結合生成反応である。馬場氏は,KNH2/Al2O3触媒を用いたフェニルアセチレンの二量化など,ファインケミカルズ合成にも有用な化学変換法を見出している。また,固体超強塩基触媒によるメタンの活性化など,非石油資源の有効利用に関わる基礎的な研究に取り組み,成果を挙げた。 以上のように馬場氏の業績は,独自の着眼・着想での固体酸,固体塩基を用いた触媒反応に対しての優れた成果と,触媒作用についての新しい視点の導入であり,今後石油化学・石油精製用触媒等の開発に大きく資するものである。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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