技術進歩賞

ペトロリオミクス技術を活用したアスファルテン凝集緩和効果に基づく重質油水素化処理技術の開発と実証

 

出光興産株式会社 殿
一般財団法人石油エネルギー技術センター 殿

 本技術は,ペトロリオミクス技術を活用することで,アスファルテン凝集緩和メカニズムを解明するとともに,触媒劣化要因であるコークの析出抑制を可能とした重質油水素化処理技術の開発と実証に関するものである。常圧残油や減圧残油などの重質油の需要は今後減少することが見込まれることから,付加価値の高い軽質油に変換する技術が重要となる。一般に軽質油への変換は,常圧残油や減圧残油などの重質油を重質油水素化処理装置(直脱装置)で脱硫・脱窒素・脱金属処理して得られる生成油を,残油流動接触分解装置(RFCC装置)で処理する方法が用いられている。重質油水素化処理装置による処理では,触媒の劣化を抑制することが技術的な課題である。従来,原料油と混合油(溶剤)の相溶性を向上することで触媒劣化要因であるコーク析出が抑制されることが経験的,定性的に知られていた。この事象に対して,ペトロリオミクスを活用することで,アスファルテンの凝縮挙動などの現象を定量的に解明できるようにした。これにより,種々の原料組成や含まれるアスファルテンなどの構造に応じて最適な混合油の選定が可能となり,重質油水素化処理の高度化を実現した。
 アスファルテンの溶解・凝集・析出メカニズムの解明では,コーク析出との関係を論理的に整理することで,アスファルテンの分子構造と組成,および混合油(溶媒)やマルテンに含まれる成分分子の化学構造と組成を網羅的に明らかにし,それらと凝集挙動の関係を定量的に把握した。これらの知見を基に,重質油や混合油の組成と構造からアスファルテンの凝集状態を予測することを可能にした。従来の相溶性向上に基づく触媒劣化抑制は,一般性状やSARA(Saturates, Aromatics, Resin, Asphaltene)の分析結果や平均構造に基づく定性的な予測であり,定量的な予測は実験データ近傍の極めて限定的な範囲に限られていた。当該予測技術を活用することで,どのような混合油をどの程度混ぜればアスファルテンの凝集状態緩和が最も促進され,反応性が向上するかを理論的に決定できるようにした。
 さらに,アスファルテンの凝集緩和の促進には3〜5環の多環芳香族を含有する基材が適していることを明らかにし,それらを多く含むRFCC分解残さ油および重質サイクルオイル(HCO)を混合油として選定し,重質油水素化処理することで,触媒の劣化が抑制されることを商業装置において実証した。
 本開発技術は,ペトロリオミクス技術を活用することで,分子レベルの構造・組成を踏まえたアスファルテン凝集メカニズム・コーキングの理論的かつ定量的な予測ができるようになるとともに,重質油水素化処理装置を高度化・効率化することが可能となり,国内石油精製の国際競争力の強化に貢献することが期待できることから,本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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