学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

重質炭化水素資源の水素化精製触媒の構造と性能向上に関する研究

 

島田 広道 殿((独)産業技術総合研究所 理事)

 島田氏は,従来処理が困難とされていた重質炭化水素資源の水素化精製,特に石炭液化油水素化精製および重質油水素化分解に用いられる触媒の性能向上にかかわる研究を行うとともに,種々の分析技術を駆使して,触媒の構造と性能,劣化に関する研究を行い,多くの成果を挙げている。同氏の当該分野での業績は多岐にわたっているが,主要な業績を以下の三つに大別してまとめる。
 第一は,石炭液化用触媒および液化油の改質触媒に関する研究である。島田氏は,石炭液化用触媒の担体として,400〜500 nmのマクロ細孔と3〜5 nmのメソ細孔からなるバイモーダル細孔構造をもつ担体が優れていることを見出した。また,液化油の水素化精製触媒としては,通常水素化精製反応に用いられるコバルト‐モリブデン,ニッケル‐モリブデン系触媒に対して,ニッケル‐タングステン系触媒が有望であることを見出した。当該触媒は,2001年ベンチプラントを用いた評価の結果,実用上必要な1年以上の触媒寿命を有し,かつ得られたガソリン基材のオクタン価,および軽油のセタン価も実用面で問題がないことを確認した。
 第二は,触媒の構造と性能および劣化機構に関する研究である。透過型電子顕微鏡,X線吸収微細構造解析等を駆使して,触媒活性種である二硫化モリブデン(MoS2)のモルフォロジーが活性に大きく影響することを見出した。特に,芳香環の水素化活性サイトがMoS2層状構造の最上層と最下層に存在すること,屈曲したMoS2構造が高活性を示すこと,またチタニア担持触媒では,硫化条件を制御することでMoS2が担体表面に垂直配置し,活性サイトの存在するエッジ部を効率的に露出し,高い水素化活性を示すなど触媒構造と基本機能との関係を明らかにした。さらに,重質油水素化処理の主な劣化原因として,極性成分に富む石炭液化油の反応では触媒活性構造であるNi-Mo-SやNi-W-S構造の崩壊が一因であることが認められるが,通常の石油系重質油の水素化精製反応においては,触媒上へのコーク析出が支配的であることを示した。
 第三は, 重質油水素化分解触媒の性能向上に関する研究である。重質油精製反応では,触媒上へのコーク析出による劣化の抑制が重要であるとの知見に基づき,分解活性点となる酸点の近傍に水素化活性サイトを配置した触媒構造を設計した。具体的にはメソ細孔を有するチタニア修飾Y型ゼオライトにニッケル‐モリブデンを担持した触媒が特に優れた性能を有することを見出した。当該触媒は,ベンチプラントにおいて高い分解活性と2500時間にわたる安定な活性を示すことを確認した。
 以上のように,島田氏は重質炭化水素資源の水素化精製触媒に関する研究において,学術面のみならず実用面でも十分な成果を得ている。多角的なキャラクタリゼーションに基づく触媒構造と性能向上に関する業績は高く評価され,かつ顕著である。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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