奨励賞(コスモ石油賞)

アルカン,アルケンの転換反応における選択性を制御する酵素およびゼオライト反応場の空洞構造因子に関する研究

 

宮地 輝光 殿(東京工業大学大学院総合理工学研究科 助教)

 宮地氏は,アルカンやアルケンから化成品原料を選択的に合成するのに必要な触媒反応場を明らかにすることを目指して,酵素およびゼオライトがもつ固有の空洞構造と,その空洞内で誘起される有機反応が示す選択性との相関を解明する研究を進め,優れた業績を挙げた。
 宮地氏はまず,分子間相互作用力が弱いために,外的要因によって特定の立体構造を保つように制御することが難しい直鎖アルカンを対象基質として選び,アルカンが酸化酵素の働きでキラルアルコールを生じる反応を検討した。その結果,酵素中に存在する活性点の周りの空洞の容積と,反応物のアルカンの分子体積がほぼ一致したときに,アルカン鎖上で水酸基が導入される位置が決まり,しかも高いエナンチオ選択性でアルコールを生じることを見出した。さらに,遺伝子組み換え技術を駆使して,活性点周りの空洞容積を反応アルカン分子の分子体積に適合させると,反応選択性がより向上することも明らかにした。
 次に,酵素に比べて明確な空洞構造をもつゼオライトの骨格構造に着目し,空洞容積の異なる種々のプロトン型ゼオライトを用いて,オレフィン転化反応の選択性に与える影響を調べた。その結果,反応中間体であるカルベニウムイオンの分子体積とゼオライト細孔の容積とがほぼ一致したとき,高い選択性を発現することを見出した。これは酵素が高い選択性を示したときと同様に,ゼオライト細孔がその容積に適した特定のカルベニウムイオン中間体を認識し,その結果選択的なβ切断反応を誘起しているという反応機構を,豊富な実験データに基づいた緻密なデータ解析と解釈から導き出した。さらに,生成物の選択性はゼオライトの空洞容積と密接に関わるが,酸強度や細孔入口径には依存しないことも明らかにした。
 以上,宮地氏の研究成果は,石油・天然ガスおよび石油化学に関連する触媒化学,生体触媒化学の進展に多大な貢献をなすものであり,学術面だけでなく応用面でも高く評価され,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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