奨励賞(東洋エンジニアリング賞)
イオン液体の機能設計と二酸化炭素分離回収技術への応用
牧野 貴至 殿((独)産業技術総合研究所 コンパクト化学システム研究センター 主任研究員)
牧野氏は,ガス吸収プロセスに適したイオン液体の設計と開発に取り組み,精密な物性測定を基に,新規なイオン液体を用いた環境負荷の少ないCO2分離回収技術の開発において優れた業績を挙げた。
イオン液体はイオンのみから構成され,室温近傍以下に融点を持つ液体塩であり,不揮発,難燃,高い熱・化学安定性等,従来のガス吸収液にはない特性を持っている。そのため,揮発損失,可燃性,大きな消費エネルギー等の従来の吸収液の課題を解決できる溶媒として注目されている。しかしながら従来の研究では,単にガス吸収量の測定に関するものが大部分であり,CO2の分離精製プロセスの開発に重要となる詳細な熱力学的物性値の測定やそれに基づいた系統的なイオン液体の分子設計はあまりなされてこなかった。
牧野氏は,これまで定性的にしか把握されていなかったルイス塩基性の酸素原子をカチオン構造に導入した種々のイオン液体とCO2溶解度の関係を,独自に開発した精密な物性測定技術と熱力学的解析により,系統的に解明した。これにより,CO2物理吸収において従来注目されていたエンタルピー効果だけでなく,吸収過程におけるエントロピー効果の重要性を見出し,物理吸収液の新しい設計法を提案した。また,温度スイングで操作される化学吸収法において,従来着目されていなかったCO2吸収量の温度依存性に影響を及ぼす因子について,たとえば水酸基がイオン液体‐CO2錯体の安定性を制御し温度依存性を大きくすることなど,分子構造と温度依存性の関係などを明らかにしたことも,学術的な意義が大きいと言える。これらの成果は,イオン液体を用いたCO2吸収法を開発・確立する上で極めて有用な設計指針を与えたものと高く評価される。
以上の業績は,CO2分離回収プロセスの省エネルギー化を通じた石油化学産業の強化や,グリーンイノベーションの進展に多大な貢献をなすものと判断され,よって本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。
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