奨励賞(東洋エンジニアリング賞)

 分子ふるい性を有する実用型カーボン膜のモジュール化と膜分離プロセスへの応用

 

吉宗 美紀 殿((独)産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 主任研究員)

 吉宗氏は,高い分離性能を示すことが知られていながら実用化が非常に困難である分子ふるい性を有する中空糸カーボン膜に関して基礎研究から実用化を視野に入れた開発研究を行ってきた。
 吉宗氏は,カーボン膜のプリカーサーとして安価なポリフェニレンオキシド(PPO)を用い,不溶化処理を行うことで中空糸カーボン膜の製造に初めて成功した。このカーボン膜は,たとえばCO2/CH4分離選択性が138と非常に高く,しかもCO2の透過速度も既存高分子膜を上回る高い気体分離性能を有する。さらに,PPOへの官能基の導入,スルホン化PPOへの金属の導入を行い,カーボン膜の透過速度向上,選択性向上など膜特性を制御する手法の開発に成功した。同氏は,この新規カーボン膜の開発により,オレフィン,アルコールなどに対して高い脱水性能が得られることも見出している。エチレンやプロピレンに不純物として含まれる水の分離では,高い供給流量で脱水率90 %以上を達成した。また,イソプロパノール水溶液の脱水では,高い水の透過速度を保ったまま水選択性が10,000以上と非常に高い分離性能を示すカーボン膜を開発した。
 吉宗氏は,このような基礎的な研究と並行して,カーボン膜の実用化の障壁となっていた「脆さによる破断」の課題に対し,膜製造条件などを調整することで中空糸カーボン膜の柔軟性を大きく向上させた。このブレークスルーにより,カーボン膜のモジュール化が可能となり,特殊ガスの分離など既存高分子膜では不可能な膜分離プロセスへの応用が加速した。同氏の業績は,学術的な報告にとどまらず,多くの特許としても開示されている。
 吉宗氏は,高い分離性能をもつ中空糸カーボン膜の基礎的な研究に基づき,モジュール化と新たな分離系への展開に成功した。この業績の独創性・完成度とも評価に値する。また,開発されたカーボン膜のさらなるスケールアップも期待でき,将来性も十分である。よって同氏の業績は,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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