野口記念奨励賞

 ゼオライト触媒による分解改質反応を活用した分解軽油からの芳香族製造プロセスの開発

 

柳川 真一朗 殿(JX日鉱日石エネルギー(株) 研究開発本部 中央技術研究所 担当マネージャー)

 柳川氏は,流動接触分解装置から得られ余剰基調となっている分解軽油を原料として,外部からの水素導入を極力低減させる形で高付加価値品であるBTX(ベンゼン,トルエン,キシレン)を高収率で製造できる,新規なFCA(Fluid Catalytic Aromaforming;流動接触芳香族製造)プロセスの開発を行っている。
 従来技術においては,分解軽油はまず高圧水素を用いて水素化分解され,得られた重質ナフサ留分の接触改質によりBTX類が製造される。しかし,高圧水素の多量消費と2段階工程が必要であることやBTX収率が十分でないことなどの課題があった。
 柳川氏は,分解軽油の主成分である2環芳香族の構造を活かし,芳香族環の1環のみを水素化,分解することでBTXを得る反応経路に着目し,実用化に向け難度の高いプロセスの開発を目指した。これを達成するために,原料の組成を詳細に分析し,組成の違いに応じた反応制御を行い,BTX収率の最大化を図った。具体的には,外部から導入する水素とは別に,原料中に含まれる多分岐ナフテン類からの2環芳香族への水素移行によっても単環芳香族が生成しうることを実験的に検証し,この反応を積極的に利用することを検討した。また,実原料中には十分な多分岐ナフテン類が含まれないことから,最低限の水素導入によりマイルドな条件で2環芳香族の1環のみを水素化する前処理方法を確立した。さらにパラフィン類,分解副生物の環化によってもBTXが得られるよう,ゼオライトを基盤とする独自の触媒を設計した。これにより,従来比1.5倍となる30 %以上の高いBTX収率を得るための独創的なプロセスを開発するに至った。
 本プロセスはベンチスケールでの実証が行われており,今後パイロットスケール検証を経て,実用化を目指している。実用化されれば,付加価値の低い分解軽油から,アジアを中心に需要が伸び続けているBTXを効率的に生産でき,石油産業の効率化すなわち資源の有効利用に大きく貢献しうる。さらに,上記のように水素移行反応を積極的に利用する着想は独創性が高く,学術分野の発展にも寄与しうるもので意義深い。よって,本業績は本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。

 

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