論文賞

ガソリンエンジン内の予混合気形成に対する燃料組成の影響−高速ガスサンプリング装置を用いた気筒内混合気の分析−

 

尾山 宏次 殿(JX日鉱日石エネルギー(株))
柴田 元 殿+1)(JX日鉱日石エネルギー(株),北海道大学)
仲野 誠一 殿,礒田 透 殿(日産自動車(株))
(所属は論文発表時のものです)

 ポート噴射ガソリンエンジンの予混合気形成は,エンジン燃焼や排出ガスの触媒浄化にも大きく影響するため,エンジン制御やガソリンの品質管理とも密接に関連する重要な研究課題である。特に冷機時においては,吸気ポート部でのガソリン付着量が増大し,気筒への燃料移送の遅れが生じやすくなるため,予混合気形成の制御が難しく,燃料性状による影響も現れやすくなる。しかしながら,ガソリンの蒸発特性が予混合気形成に及ぼす影響を調べた既往の研究例は少ない。
 尾山らは,点火プラグ近傍の混合気を点火直前に高速サンプリングして,ガスクロマトグラフィーで組成分析を行える実験システムを開発することにより,燃料中の各炭化水素の蒸発割合,つまり吸入混合気の組成に対する燃料組成の影響を調べることを可能とした。実際のガソリン(多成分系)を模擬できるよう,13種類の炭化水素を組み合わせたモデルガソリンを10種類調製して試験燃料とし,各炭化水素の蒸発量を定量的に調べた。さらに,飽和蒸気圧特性との関係について理論的解析を加え,蒸発量の推定式からの計算値と実測値との相関を調べた結果,各成分の蒸発量は飽和蒸気圧と良い相関があることを確認した。
 本論文は,モデル物質を利用してエンジン気筒内での蒸発特性を評価し,結果を熱力学的に考察し,各成分の蒸発率を推定する理論を述べているところに新規性がある。近年,ガソリン基材・成分は多様化しているが,その際の蒸発特性への影響を本論文の理論的推定式から精度良く推定できる可能性があり,今後の自動車・石油関連産業に貢献できる技術開発である。また,熱力学理論で蒸発特性をモデル化し,各試験燃料の各炭化水素成分の気筒内濃度について理論的推定式を実験結果で検証し,理論と実験のそれぞれの結果が明瞭に記述され,論文としての完成度は高い。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文]J. Jpn. Petrol. Inst. , 56, (1), 32 (2013).

+1)(現在)北海道大学

 

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