奨励賞(千代田化工建設賞)

新規多点結合型リンカーを利用した分子触媒の固定化

 

深谷 訓久 殿((独)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 主任研究員)

 有機金属錯体などの液相均一系で作用する分子触媒は,一般に温和な条件で高活性・高選択を示すことが多く,ファインケミカルだけでなくバルクケミカルにおいても広範な実用化が期待されている。分子触媒の実用化にはリサイクル性と触媒機能向上の両立が不可欠である。分子触媒を担体上にリンカー機能を有する配位子を用いて担持した固定化分子触媒に関する研究は長年行われてきた。しかし,担体‐リンカー間の結合の固定化能が十分でなく,反応による触媒成分溶出や変性を抑制できていない。
 深谷氏は,これまでの固定化分子触媒のリンカー部に着目し,十分な固定化力を発揮することが期待できる新規多点結合型リンカーを設計・合成し,分子触媒の固定化用リンカーとして機能する研究を体系的に行った。同氏は有機ケイ素化合物の特性を生かし,アルキル基‐ケイ素‐結合部を脚とする三脚型の新規リンカーを合成し,分子触媒をシリカ表面に独立した3点で固定化することに成功した。従来型のトリアルコキシシラン系のシランカップリング剤をリンカーとした材料でリンカーが容易にリーチングする水熱条件下においても,多点結合型材料ではリンカーのリーチングが90 %抑制された。さらに,同氏は,様々な有機配位子をもつ多点結合型リンカーをシリカ表面に固定化し調製した新規固定化分子触媒を用いることで,鈴木カップリング反応や不斉水素化など石油化学における高機能化学品製造プロセスにおいて鍵となる合成反応に対して,従来型の固定化分子触媒を大幅に上回る触媒性能および低リーチング性を実現した。
 深谷氏の研究は,プロセス化したい分子触媒,あるいは反応の特性に合わせた多点結合型リンカーを設計・合成することにより,高活性・高選択性かつ分離回収が容易な固定化分子触媒の開発を可能にし,実用化に大いに貢献すると期待される。よって,同氏の業績は本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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