学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

固体酸化物形燃料電池および燃焼・改質のための複合金属酸化物触媒材料の開発

 

江口 浩一 殿(京都大学大学院工学研究科 教授)

 江口氏は,固体酸化物形燃料電池,触媒燃焼,水蒸気改質反応による水素製造などに対して,有効な複合金属酸化物をベースとした材料を開発し,触媒反応活性,イオン伝導性などの性能評価を行うと同時に,多角的な構造解析により,高機能性発現のメカニズムを解明し,当該分野の進展を先導する数多くの優れた成果を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 酸化セリウムにサマリウムやガドリニウムイオンをドープした材料が高い酸素イオン伝導度をもち,固体酸化物形燃料電池の作動温度低下に対して有効な電解質であることを,1987〜90年前半という早い時期に明らかにした。また,ニッケル金属と金属イオンをドープした酸化セリウムや安定化ジルコニアとからなるサーメットアノードの三相界面長さを定量的に見積もる構造評価法を確立し,性能低下と三相界面長さの減少がよく相関することを明らかにした。セリア系材料は商用化を目指す開発で主材料として用いられることもあり,これらの先駆的かつ体系的な研究成果は固体酸化物形燃料電池の実用化にも重要な知見を与えるものであると評価できる。
 酸化スズやニッケル‐アルミナなどを担体として,パラジウム,ルテニウム,白金などの貴金属を担持した触媒が炭化水素,揮発性有機化合物などの燃焼反応に対して高活性であることを見出した。電子顕微鏡などを用いて系統的にキャラクタリゼーションを行うことにより,雰囲気によって,貴金属種が担体表面上に薄い酸化物層を形成するケース,再分散した金属微粒子を形成するケース,コア‐シェル型の合金微粒子を形成するケースなど様々な構造変化を観測した。貴金属種‐酸化物担体間の相互作用が,この構造変化や触媒活性に与える影響を明らかにした。
 水蒸気改質反応や水性ガスシフト反応に対して有効な複合金属酸化物触媒材料の開発についても優れた成果を挙げている。ジメチルエーテルの水蒸気改質反応では,スピネル酸化物の還元により析出した銅微粒子とアルミナを複合化した触媒が高活性であることを示した。また,水性ガスシフト反応用の高活性触媒の調製に対して,銅‐鉄や銅‐マンガンのスピネル型酸化物を前駆体として用いることが有用であることを示した。
 以上のように,江口氏は,固体電解質や触媒として高い機能を持った複合金属酸化物材料の開発において先駆的な成果を挙げ,体系的・多角的な研究から構造解析や機能発現メカニズムの解明についても精力的に行ってきた。さらに,実用化を踏まえた劣化挙動などに関する研究においても顕著な成果を挙げ,エネルギー変換と触媒化学の分野の学術的発展に大きく貢献した。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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