技術進歩賞

新規な亜鉛・リン修飾残油水素化脱硫触媒の開発と実用化

 

コスモ石油株式会社 殿
一般財団法人石油エネルギー技術センター 殿

 本技術は,NiMo/Al2O3系残油水素化脱硫触媒に亜鉛とリンを共存させることでその複合効果により,高い脱硫性能と安定性を発揮させる触媒技術の改良と実用化に関するものである。重油需要は今後減少することが予想されており,主な重油の基材である常圧残油や減圧残油を付加価値の高い軽質油に効率よく変換する技術の開発がますます重要となる。既存設備を用いる場合,残油水素化脱硫装置で常圧残油や減圧残油を処理して得られた脱硫重油を残油流動接触分解装置で分解処理する方法が良く行われている。しかし,減圧残油にはコーク前駆体となるアスファルテンが多量に存在するため,残油水素化脱硫装置にて常圧残油と減圧残油を混合処理する場合,残油水素化脱硫触媒のコーク生成に起因する活性低下が著しく進行する。そこで,新規設備の導入なしでこの課題を解決することが可能となる残油水素化脱硫触媒の高性能化に向け,新たなブレークスルー技術の研究開発が実施された。
 一般に,脱硫触媒にリン等の成分を単独で適量添加すると脱硫活性が向上することが知られている。しかし,リン添加は,触媒上の酸性OH基を増加させコーク生成を促進してしまう。本技術開発では,触媒のアルミナ担体製造の過程において,リンに加えて,新たに亜鉛で修飾することにより酸性OH基の増加を抑制し,高い脱硫性能を維持しつつ脱硫触媒の初期劣化を約5 ℃抑制することに成功した。 
 さらに,残油水素化脱硫に供される原料残油には,硫黄分のほかにニッケルやバナジウムのような重金属が含まれており,触媒の細孔を閉塞して脱硫性能を低下させることが知られている。このため,本技術開発では,前述の開発触媒を含む主に3種類の触媒を積層させて機能分担することで,商業運転期間である1年間安定に運転できる触媒システムの開発に成功した。具体的には,上段に脱金属触媒を,中段に耐メタル性を向上させたリン・亜鉛修飾触媒を充填して,上・中段触媒で処理して十分に重金属濃度が低くなった原料油を,最終的に下段の相対的に脱硫性能を高めたリン・亜鉛修飾触媒で処理するように最適化を行った。
 本開発触媒の製造技術は2010年に確立され,2012年には商業装置に約450トンの触媒が導入され,この実証運転を通じて,脱硫性能や劣化速度などが想定通りの性能であることが確認された。今後も本触媒は,商業装置にて合計約1000トン/年の使用が見込まれている。
 以上,本技術は残油水素化脱硫触媒の性能を格段に向上したと認められ,本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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