学会賞(表彰規程第3条2項に該当するもの)[工業的]

コア‐シェル型金‐酸化ニッケルナノ粒子触媒を用いたメタクリル酸メチル製造技術の開発と工業化

 

鈴木 賢 殿,山口 辰男 殿,後藤 英明 殿,山根 誠一郎 殿(旭化成ケミカルズ(株))
安達 厚喜 殿(旭化成プラスチックスシンガポール)

 メタクリル酸メチル(MMA)モノマーは透明性・耐候性に優れたアクリル樹脂および塗料の原料として重要で,需要の伸びを背景に様々な製造プロセスが世界中で稼動している。それらの中で旭化成工業(株)(当時)が開発したMMA製造プロセスは,メタクロレインを直接酸化してメチルエステル化する直接酸化エステル化法(直メタ法)を採用し,他に類例を見ない独自のものである。Pd-Pb金属間化合物触媒を用いる本法は,MMAの収率が高く原料の利用効率が高い特徴を有するが,1999年の工業化以来,実プラントではMMAの選択性低下・ギ酸メチルの副生・触媒の劣化などの問題があり,これを代替する新規触媒プロセスの開発が切望されていた。
 鈴木氏らは従来触媒系の改良ではなく新規な触媒系の開発に取り組み,過酸化ニッケルが酸化エステル化に活性を示すことの発見を糸口に,このニッケルの酸化状態を制御する添加金属・担体の検討を行った。その結果,金ナノ粒子と酸化ニッケルとから構成されたコア‐シェル型の複合ナノ粒子を活性種とする新触媒を見出した。
 本触媒では,金ナノ粒子の表面が高酸化型の酸化ニッケルで被覆されたコア‐シェル構造を有する2 〜 3 nmの複合ナノ粒子が担体上に均一に分散担持されて,酸化ニッケルが活性な高酸化状態をとり得る。また,酸化ニッケルとシリカ系担体中の金属成分が複合酸化物を形成し,これがSi-Al架橋構造の安定化に作用し触媒の安定性を高めている。さらに,高強度シリカ系担体を開発し,触媒成分の分布を制御することで物理的な摩耗・はく離を抑制して,触媒の長期寿命を保証する工業触媒技術を確立することができた。これらの触媒構造と作用効果はTEM/STEM-EDX,XRD,XPS,UV-Vis,FT-IRによるキャラクタリゼーションで明らかにされている。
 本触媒技術は,2008年より10 万トン/年規模の製造プラントに採用された。MMAは96 %と極めて高い選択性で得られ,貴金属あたりの活性はPd-Pb系の10倍になり,また触媒寿命も10倍以上と飛躍的に向上した。さらに,ギ酸メチルの副生成量は1/10に抑制されて分離工程のコスト低減にも寄与した。工業化後5年以上を経過しても劣化はほとんど見られず,反応プラントは安定運転を継続している。従来にないコア‐シェル型ナノ粒子構造の触媒を開発したことは独創性が高く,金ナノ粒子を触媒構成要素として用いた初の工業化プロセスでもある。
 以上のように,本技術はナノ構造制御により優れた実用的成果を得たものであり,本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 

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