野口記念奨励賞
高圧下における軽油成分の結晶析出評価手法に関する研究
村田 和巳殿(コスモ石油(株)中央研究所 副主任研究員)*
ディーゼルエンジンにおけるコモンレール式燃料噴射装置技術は低公害化に大きく寄与している。コモンレール圧力のより一層の高圧化が検討されるなかで,村田氏は従来の低温での結晶析出管理手法に加え,高圧下での結晶析出を回避しうる新しい燃料設計指針を提案した。
まず,村田氏は低温時における結晶析出特性が異なり,かつ他の性状がほぼ同等な3種類の軽油を設計し,エンジン性能試験を行った。その結果,始動後に高負荷で急加速する条件では,エンジン性能が燃料間で異なる現象を実験的に見出した。次に,温度−30〜50 ℃で最大圧力300 MPaまで加圧した状態で,燃料を観察することができる高圧可視化セルを独自に開発した。同セルを用いた観察により,高圧下では曇り点よりも数十度高い温度においても結晶が析出する現象を確認し,燃料間でのエンジンの性能の違いを合理的に説明しうる結晶の析出現象を明らかにした。
市場の軽油は各種炭化水素から構成されており,低温での結晶析出は重質ノルマルパラフィン量に大きく依存することが知られている。村田氏は,国内流通品をベースに調合した軽油を用いた高圧観察実験を行った結果,結晶析出圧力と温度の関係が異なる軽油が存在することを見出した。さらに,結晶析出の原因となる重質ノルマルパラフィンを溶解する能力は,常圧低温時において効果のある軽質ノルマルパラフィンやアルキルベンゼン類に加え,高圧下ではイソパラフィンが優れており,逆に常圧低温時に効果のあるナフテン類は高圧下ではそれ自身が凝固・凝集により結晶溶解力が低下することも見出した。
今後,バイオディーゼル燃料やFT合成油のような単一成分に近い新規基材を用いた場合には軽油自体の結晶生成条件が従来品と異なるため,村田氏が開発した結晶析出評価手法は極めて有効な手段となりうるものと考えられ,研究の発展が大いに期待されるところである。よって,本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。 *(現在)コスモ石油ルブリカンツ(株)商品研究所 副主任研究員
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