論文賞

重質有機硫黄化合物を生成する硫酸化アルミナによる市販灯油の吸着脱硫

 

戸井田 康宏殿1)((株)ジャパンエナジー 精製技術センター)
中村 一穂殿,松本 幹治殿(横浜国立大学大学院工学府)
(所属は論文発表時)

 近年,地球温暖化に対する関心の高まりを背景に温室効果ガスの削減が叫ばれている。エネルギー分野においてもクリーンなエネルギー機器の開発が注目されており,その中でも燃料電池はエネルギー総合効率が高く,温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減するエネルギー機器としての期待が高い。
 燃料電池を一般家庭で使用する場合,その取扱いの容易さから燃料として灯油を用いて改質反応により水素を発生させ,得られた水素を供給するシステムも提案されている。しかし,市販灯油中には燃料電池の触媒を被毒し劣化させる原因となる硫黄が10 ppm弱含まれており,この硫黄分を長期的に,かつ経済性に優れた手法で0.1 ppm以下まで脱硫する技術が求められている。
 著者らはこれまで困難とされていた「常温」,「常圧」,「水素非存在」という条件下で,固体超強酸系脱硫剤である硫酸化アルミナと酸化銅,酸化銀を担持した活性炭系脱硫剤を組み合わせることにより,硫黄濃度6 ppmの市販灯油の脱硫性能評価実験を行い,硫黄濃度を0.05 ppm以下まで低減することに成功するとともに,2000時間を超える長期連続運転において安定した脱硫性能を維持することを実証した。本論文では,3種類の硫酸化アルミナと2種類の活性炭系脱硫剤を用い,硫黄化合物タイプ別(チオフェン類,ベンゾチオフェン類,ジベンゾチオフェン類)の吸着脱硫性能を詳細に評価,解析することにより,硫酸化アルミナの脱硫性能はルイス酸の寄与が大きいこと,またジベンゾチオフェン類の吸着除去性能が限定的であるという硫酸化アルミナの短所を活性炭系脱硫剤が補い,長期にわたり安定な脱硫性能を維持するという重要な知見を得た。その際,硫酸化アルミナがチオフェン類やベンゾチオフェン類を重質化させ,吸着を容易にするという特徴的なメカニズムを新たに提案した。常温,常圧,水素非存在という条件下で高い脱硫性能を実証できたことは,経済性に優れた,より簡潔なシステムの構築につながるものである。
 本研究により得られた知見および実証試験結果は,灯油を燃料とする家庭用燃料電池システムの実用化につながる顕著な成果であるものと考えられる。
 以上の点から,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 53, (6), 342 (2010).
1)(現在)JXホールディングス(株)

 

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