論文賞

シクロヘキサン脱水素用多管式メンブレンリアクターのCFD解析と設計

 

味村 健一殿1),吉田 直樹殿1),佐藤 剛史殿,伊藤 直次殿(宇都宮大学大学院工学研究科)
(所属は論文発表時)

 水素社会の実現に向け様々な開発が行われている中,シクロヘキサンやメチルシクロヘキサンなどの有機ハイドライドは6 wt%を超える比較的大きな水素貯蔵量を有することから,これらを用いた水素の貯蔵・輸送システムが注目され広く研究が行われている。有機ハイドライドであるシクロヘキサンの脱水素には,固定層型平衡反応器に比較して高効率で水素回収が可能なパラジウムメンブレンリアクターの適用が有力な候補とされている。しかし,実用化にはさらなるスケールアップが求められることから,多管式メンブレンリアクターへの展開が期待されている。
 メンブレンリアクターは通常の固定層反応器に比べて,多くの操作条件を含めた設計パラメーターを持つため,これらパラメーターの最適化にはメンブレンリアクターの数学モデルを構築することが重要となる。従来から,簡単な反応器形状に対する,1次元,2次元モデルが提案されてきた。しかし,これらモデルをメンブレンリアクターのように,より複雑な3次元の反応器形状に拡張することは容易でない。
 著者らは3次元流動解析技術として様々な工学分野で利用されているCFD(Computational Fluid Dynamics: 数値流体力学)の手法に,触媒層や膜分離の熱物質移動,多管式メンブレンリアクターの形状を組み込んだシミュレーションモデルを開発し,シクロヘキサンの脱水素シミュレーションを行い,実験値との比較においてモデルの妥当性を検証した。さらに,モデル計算によって多管式メンブレンリアクターの性能向上のための検討を行い,シクロヘキサンの転化率と水素回収率の向上に寄与する因子を抽出し,それらの効果の予測を行った。これらは,CFD3次元モデル構築によるシミュレーションによって,反応器内部の現象を可視化することで可能となったものである。
 以上から,本研究の成果は水素輸送・貯蔵媒体として有望視されているシクロヘキサンの脱水素反応の転化率を向上させ,同時に高純度の水素を分離回収することができる反応器として期待されている多管式メンブレンリアクターのスケールアップや最適化設計に貢献することが期待できる。
 よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 53, (5), 283 (2010).
1)(現在)千代田アドバンスト・ソリューションズ(株)

 

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