奨励賞(千代田化工建設賞)

透過分離性と耐酸性に優れたチャバザイト型ゼオライト膜の開発とエステル化反応への展開

 

長谷川 泰久殿((独)産業技術総合研究所 コンパクト化学システム研究センター 研究員)

 日本の製造業全体から排出される二酸化炭素の約8 %は,多くの熱エネルギーを必要とする化学工業の蒸留プロセスに由来する。そのため省エネルギー分離技術の開発は急務であり,分離対象物質の分子径に近いミクロ孔を有するゼオライトは分離膜素材として注目されている。長谷川氏はゼオライト膜の形成,劣化,透過分離機構等に関する基礎的研究を行い,ゼオライトの物性(ミクロ孔容積,ミクロ孔径,組成等)と分離膜の性能(透過性,分離性)および耐久性の定量的な関係を明確化するとともに高性能なゼオライト膜の開発に成功した。
 長谷川氏はまず,バイオマスアルコール等の有機溶媒を対象とした脱水用ゼオライト膜の設計・開発において,0.2 cm3/g以上のミクロ孔容積,0.4 nm未満のミクロ孔径およびSi/Al比3以上のゼオライトが膜素材として好適であることを明らかにし,高性能なチャバザイト(CHA)型ゼオライト膜を開発した。このCHA型ゼオライト膜は,現在実用化されているA 型ゼオライト膜と同等の脱水性能を示すとともに,優れた耐酸性を有している。さらに,A型ゼオライト膜が適用できない酸性系で膜分離と触媒反応を組み合わせた膜反応システムを新たに開発した。本系では耐酸性CHA型ゼオライト膜を,濃硫酸を触媒とした平衡反応であるエステル化反応(アジピン酸ジイソプロピルの合成)に適用し,副生した水を反応系外に選択的に除外することにより,アジピン酸ジイソプロピルエステル収率を95 %にも向上できることを明らかにした。
 よって,石油化学工業分野での大幅な省エネルギー分離技術として期待されるゼオライト分離膜の設計・開発ならびにその利用に関する長谷川氏の研究業績は,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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