論文賞

イソブテン,硫化水素および硫黄からのジ-t -ブチルポリスルフィドの合成(第2報)
 MFI型ゼオライト触媒の性能

 

銭 衛華殿*1),平林 一男殿*1),平沢 佐都子殿*1),山田 滋殿*2),坂田 浩殿*2),石原 篤殿*3)
(*1)東京農工大学,*2)大日本インキ化学工業(株),*3)三重大学)

 アルキルポリスルフィド類は,新規予備硫化剤,コークス生成抑制剤,金属加工油添加剤,および潤滑油添加剤として有用な化合物である。従来,アルキルポリスルフィド類の一つであるジ-t -ブチルポリスルフィドを,イソブテン,硫化水素および硫黄の3成分から一段で合成する方法としては,液体アミン触媒を用いる方法が知られている。しかし,均一系液体触媒を用いる場合,生成物と触媒を分離する工程が必要になるため,分離が容易な不均一系固体触媒への代替が望まれている。
 本論文は,触媒に特定の固体酸を用いることにより,従来使用してきた液体アミン触媒と同等以上の収率が得られることを報告したものである。具体的には,固体酸触媒としてGa含有MFI型ゼオライトが高活性を示し,かつ強い酸点の存在が単体硫黄の開環活性に有効であることを見出した。さらに,従来の液体アミン触媒においては,系内に存在する硫化水素による触媒の活性劣化が進行すると考えられていたのに対して,当固体酸触媒系の適用により,硫化水素存在下においても高い触媒活性を維持できる効果も期待できる。
 著者らは,MFI型ゼオライトの合成時にGaをドープしてGa含有MFI型ゼオライトを合成した。同様にBを含有した触媒も合成して比較検討したところ,活性の低かったB含有触媒はアンモニア昇温脱離分析法における強酸点を持たないのに対して,Ga含有触媒では強酸点を有しており,これが活性向上に寄与していると考察した。また,反応中間体と推定されるt -ブチルチオールを使用して硫黄と反応させることにより,反応経路に関する知見を取得し,本触媒系における反応経路も提唱した。
 以上のように,本研究の成果は,既存合成反応へ固体酸触媒を適用することにより,分離に要する工程の簡略化が図られることから,化学製品の製造に要するエネルギー消費の低減技術として期待される。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

  [対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 52, (3), 128-138(2009).

 

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