野口記念奨励賞
セルロース糖化およびグルコースからの乳酸・グルコン酸合成のための水熱反応用固体触媒の開発
恩田 歩武殿(高知大学教育研究部総合科学系)
バイオマスは石油代替資源として重要な役割を果たすことが期待されている。特に食料と競合しないセルロース系バイオマスの変換は重要な技術課題となっている。恩田氏はセルロースの糖化およびそこから誘導されるグルコースの変換反応に注目し,従来型の発酵法や均一触媒法と異なる,水熱反応用の固体触媒の開発を行った。
具体的には,水熱条件下でのグルコースへのセルロース糖化反応については,希硫酸を用いた均一触媒法に対して,スルホン化活性炭触媒が選択性の点で優位性を持つことを明らかにし,固体触媒として機能することを示した。同時に,スルホン化活性炭触媒が水熱反応条件下で安定な性能を維持することも示した。
次に,グルコースを乳酸,グルコン酸へと変換する水熱条件下で機能する固体触媒反応系について研究を行い,塩基性条件下で活性炭担持白金触媒を用いることで,グルコン酸および乳酸が高い収率で得られることを明らかにした。さらに,グルコースを乳酸に変換する固体触媒反応において,適切な前処理後に水和した構造のハイドロタルサイト触媒がグルコースの乳酸への変換反応に高い活性を示すことを見出し,基質がアクセス可能なブレンステッド塩基サイト数と触媒反応活性との間に直線的な相関があることも明らかにした。
恩田氏は,カルシウム,ストロンチウム,鉛イオンを含んだバナジウムおよびリン置換型ヒドロキシアパタイト等の水熱合成法の開発と触媒利用に関する研究でも成果を挙げている。
このようにバイオマス資源の変換技術において,選択性の向上という固体触媒の課題に対して,恩田氏は幅広い基礎的研究と独自の発想に基づく触媒反応系を提案し,さらに触媒調製,構造解析,活性評価等の一連の研究に従事し,本研究の成果を導くに至った。
以上の理由により,恩田氏の研究業績は本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。
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