学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
潤滑油の作用機構に関する界面化学的研究
森 誠之殿(岩手大学工学部 教授)
森氏は,潤滑現象を接触界面における化学現象と捉えて独創的かつ先駆的な研究を推進し,潤滑現象の理解や潤滑油の開発指針と実用化に大きく貢献する優れた成果を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
(1)境界潤滑における界面化学
境界潤滑においては,摩擦面に対する潤滑油成分の吸着や表面反応により,生成する境界潤滑膜が潤滑効果を示す。森氏は,摩擦によって生成する「新生面」の化学活性に着目し,新生面の化学活性が評価できる装置を新規に考案するとともに,各種金属やセラミックスなどの新生面における潤滑油成分についての化学吸着と表面反応について解析した。これらの研究成果は,潤滑油に使用する添加剤の選択に対して有用な指針を与えるものであり,各種潤滑油の組成開発に応用されている。また,摩擦によって形成される新生面の作用により炭化水素油が分解し,水素や炭化水素が生成することを明らかにした。これは軸受け材料の水素脆化の解明に貢献している。
(2)マイクロトライボロジーの界面化学
固体表面上に形成される吸着膜のモデルとして,配向性や構造が明確なラングミュア‐ブロジェット(LB)膜を用い,膜分子の配列構造や膜の表面エネルギーが摩擦係数に関与すること,接触部での単分子膜の化学的,物理的変化がトライボロジー特性に影響するなど,固体表面における吸着膜と潤滑特性との関係を明らかにしている。応用例として,ハードディスクの磁気ヘッドとディスク界面における構造と潤滑特性に関する成果は,耐久性に優れたハードディスクの実用化に貢献している。
(3)潤滑膜の化学構造解析
潤滑現象は力学的エネルギーが関与する動的な現象であり,森氏は最新の分析法を導入して,従来にない新しい手法で潤滑現象を分析している。たとえば,顕微FTIRを利用し,実際の弾性流体潤滑状態にある潤滑膜を「その場観察」する方法を開発し,せん断により潤滑油分子が配向すること,接触場では添加剤の濃度が変化すること,この濃度変化は添加剤と基油の組み合わせに依存することなどの,興味深い結果を見出している。また,TOF-SIMSなどの二次イオン質量分析器を境界潤滑膜の構造解析に適用し,ナノメータースケールの潤滑膜の化学構造の解析を通して,添加剤の反応により生成する境界潤滑膜の化学構造と潤滑特性との関係を明らかにした。その成果は新規潤滑油の開発に利用されている。
以上のように,森氏の潤滑油,潤滑現象に関する研究業績は顕著であり,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
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