学会賞(表彰表彰規程第3条2項に該当するもの)[工業的]

エチレングリコール製造のための新規触媒プロセスの開発と工業化

 

三菱化学株式会社殿

 モノエチレングリコール(MEG)は,繊維・フィルムなどのポリエステル製品および不凍液の原料であり,石油化学における重要な基幹製品の一つである。MEGは1925年に工業生産が開始され,現在世界の年間生産量は1900万トンに及び,アジア・中東などで今後も需要の伸びが続くと予想されている。現行の生産法は,エチレンの直接酸化により得られた酸化エチレン(EO)を原料として,無触媒条件下での水和反応によりMEGを得るというものである。この現行技術では,水和反応の際に,ジエチレングリコール(DEG)やトリエチレングリコール(TEG)が生成するという問題がある。この副反応を回避するため,EOに対して20倍以上の大過剰の水を用いているが,それでもMEGの選択率は最大89%にとどまる。製造コスト削減のためには,水の使用量削減および選択性のさらなる向上が強く望まれている。
 三菱化学(株)では,これらの問題を解決しコスト削減を達成するため,新規なMEG製造法を開発した。これはEOを二酸化炭素と反応させ,まずエチレンカーボネート(EC)に転化した後,これを加水分解してMEGを得る方法である。現行法のEO水和反応に比べて,これらの反応の速度は数百倍以上であるため,DEGやTEGの副生がほとんど起こらず,MEGの選択率が99%を超えるまでに向上した。また,ECの加水分解に用いた4級アルキルホスホニウムハライド触媒は,ほぼ量論量の水存在下で十分な反応速度を与えるため,現行法に比べて水使用量の大幅削減を可能にした。これらにより,プラント建設費で10%以上,変動費で5〜10%のコスト削減を達成した。
 三菱化学(株)では,1979年に基礎研究を開始してから着実に開発を続け,2001年には15,000トン/年の実証プラントを鹿島に立ち上げた。現在は,EOプロセスをもつShell社と協力してライセンスビジネスを進行中であり,韓国・サウジアラビアなどの企業と既に5件の契約を結んでいる。
 本製法は非常に高い目的物選択率を達成するとともに,水使用量の大幅削減も可能にしたことにより,現行法に比べてコスト・エネルギー・環境負荷いずれにおいても優れた方法となっている。今後MEG需要の伸びが予想されるアジア・中東など,グローバルに展開しうる新技術として発展が期待される。よって,本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 

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