学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
窒素酸化物除去用新規触媒の開発と高度化
田 秀昭殿((独)産業技術総合研究所 新燃料自動車技術研究センター 副研究センター長)
田氏は,窒素酸化物(NOx)除去触媒技術の開発に精力的に取り組み,選択還元,直接分解反応に対する新規触媒の開発,触媒反応機構・作用機構の解明など,当該分野の進展を先導する数多くの優れた成果を挙げている。以下に同氏の成果をまとめる。
第一は,酸素存在下での炭化水素によるNOの選択還元(HC-SCR)反応に関する研究である。Cuイオン交換ゼオライト触媒によりHC-SCR反応が発見された当初は,本反応はCuイオンに特異なものと考えられていたが,田氏は深い考察と斬新な発想を基にして研究を推進し,プロトン型ゼオライトやアルミナ等の固体酸系触媒が本反応に活性を示すことを世界に先駆けて報告した。本反応の機構の解明も進め,酸素の反応促進効果を確認するとともに,NO2や炭化水素部分酸化体等が重要な反応中間体である可能性を初めて指摘した。さらに,本反応が多くの並行反応,逐次反応ステップからなることを考察し,複数の触媒種の協奏効果,水蒸気によるNO還元促進効果等についても注目に値する成果を得ている。これら一連の研究は,HC-SCR反応が一般性の高い反応であることを示し,その後のNOx触媒研究の加速,進展に大きく寄与したものとして高く評価されている。また,上記の基礎研究のみならず,アルミナ触媒を用いるシステムが実ディーゼルエンジン排ガスのNOx除去に有効であることを実証するなど,実用化研究も推進している。
第二は,H2やCOを還元剤とする酸素存在下でのNOの選択還元反応に関する研究である。H2を還元剤とする既存の触媒で問題であったSO2による阻害効果の回避を中心に研究を進め,SO2存在下でRhとIr系触媒がH2によりNOを特異的に還元できること,またIr系触媒はCOによる高い選択還元活性を示すことを見出している。SO2のNO還元促進効果の機構解明をはじめ,触媒構造の詳細解析や反応解析を通して触媒の作用機構などを解明している。さらに,Ir/SiO2触媒への塩基性酸化物,W,Nb等の添加により幅広いSO2濃度条件で有効な触媒を開発し,実ディーゼル排ガス中での実用研究へと展開している。
第三は,理想的なNO除去反応である直接分解反応に関する研究である。Ag添加Co3O4触媒,塩基性酸化物修飾Co3O4触媒および担持Pd触媒の開発ならびに作用機構や活性サイトの解明などに優れた成果を挙げている。
以上,田氏は,従来のNOx除去触媒の枠組みを大きく超える多くの新規触媒の開発とその作用機構の解明などを通して,当該分野における世界の学術の潮流をリードするとともに基礎的にも実用的にも顕著な研究業績を挙げている。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
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