学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

規則性ナノ多孔体を用いる新しい固体触媒反応系の開拓

 

岩本 正和殿(東京工業大学 フロンティア研究センター 教授)

 岩本氏は,ゼオライトやメソ多孔体等のナノ空間物質が高表面積,規則性細孔等の特徴以外にナノ空間でのみ可能な新機能を有している可能性に焦点を当て,従来は不可能とされていた触媒反応や従来の概念を超える機能を数多く発見,開拓した。以下に同氏の成果をまとめる。
 第一に,一酸化窒素NO無害化のための触媒反応系の開拓である。銅イオン交換ゼオライトの特異な酸素脱離能を発見し,それに基づいて一酸化窒素の低温接触分解を世界で初めて達成した点が特筆される。岩本氏は,活性とゼオライト構造,Si/Al比の関連の解明,過剰イオン交換法の開発とそれによる分解活性の向上,銅ダイマー種の酸化還元サイクルやNO中間体の究明等を達成した。銅‐ゼオライトは世界中の触媒研究者の改良,反応機構解明,応用研究の対象となっている。同氏は,その後,酸素と炭化水素の共存下でNOが選択的に還元される現象HC-SCRを見出し,NO接触除去に新局面を開いた。HC-SCRは酸素の共存により加速され,水やSO2の被毒を受けにくいこと等を究明した。同氏はさらに反応機構や活性制御因子を解明し,高活性化を達成するとともに新しい自動車排ガス処理触媒プロセスの指導原理を確立した。約30年前,三元触媒法,アンモニア選択還元法が実用化され,世界中でNO関連の研究がほとんど行なわれなくなった時,より本質的な反応に目を向け,独自の着眼により研究を開始し,新たな方法論を開拓した同氏の独創性は国際的に高く評価されている。
 第二に,シリカ多孔体の特異な固体酸触媒能の発見と応用,および活性点構造の精密制御による特異な機能の実現である。岩本氏はシリカメソ多孔体が良好な酸触媒として機能すること,酸性質がメソ細孔の大きさに関連することを見出した。この酸触媒能は表面シラノールの集合,すなわち弱酸点の協奏によって誘起されることを提案している。ついで同氏は,上記の酸触媒能と金属イオンの組合せによる新触媒の創成を試み,ニッケルイオン担持MCM-41がエチレンからプロピレンへの転換能を有することを見出した。同氏は,触媒調製法の工夫により高いプロピレン収率を達成するとともに,反応が二量化,異性化,メタセシスと進んでいることを解明した。また,メソ多孔体の調製ではテンプレートイオン交換法(TIE法)および壁イオン交換法(WIE法)を開拓した。TIE法は,シリカメソ多孔体の細孔壁に金属イオンを高分散担持できる方法として世界中で多く活用されている。
 以上,岩本氏は,それまで実現困難と考えられていた事象に独自の着眼,着想で果敢に挑戦し,「夢の反応」を実現してきた。このように同氏の研究業績は顕著である。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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