学会賞(表彰表彰規程第3条2項に該当するもの)[工業的]

クメンを循環使用する新規酸化プロピレン製造プロセスの開発

 

住友化学株式会社殿

 酸化プロピレン(以下PO)は,ウレタン原料として世界で約700万トン使用されている主要化学品である。既存のPO製法には,クロロヒドリン法とヒドロペルオキシド法がある。ヒドロペルオキシド法には,エチルベンゼン法とイソブタン法がある。このヒドロペルオキシド法は,塩素を使用せず,また塩化カルシウムを含む大量の廃水の処理の必要がないところから,クロロヒドリン法に比べて環境負荷が少ない点で優れているが,対応するスチレンやターシャリーブチルアルコールが併産されてしまう。このため,新たなPO単産法の開発が強く望まれていた。
 住友化学(株)ではエチルベンゼンではなくクメンを循環使用するという新たな概念のPO単産法の開発に挑戦し,鍵となる新規な高性能エポキシ化触媒の開発に成功することによって本技術を完成させた。本製法はクメンの酸素酸化によるクメンヒドロペルオキシドの合成,クメンヒドロペルオキシドによるプロピレンのエポキシ化,クミルアルコールの水素化によるクメンの合成の三つの反応から構成されるが,クメンヒドロペルオキシドという大きな分子とプロピレンとのエポシキ化反応を効率的に進行させることのできる新規なメソポーラス系Tiシリカ触媒の完成が本研究開発のブレークスルーとなった。Tiシリカ触媒はゾルゲル法で調製されたもので,エポキシ化反応に高活性を示す4配位チタンがシリカ骨格中に高分散な状態で取り込まれ,精密に制御されたメソ‐マクロ細孔が存在し,かつ疎水性も賦与されているところから,クメンヒドロペルオキシドを酸化剤としたエポキシ化反応の触媒として高い機能を有するものとなった。
 2003年に本製法に基づく工業プラント(能力15万トン/年)の稼動が開始され,その後2005年には20万トン/年に能力増強が行われ,順調な稼動を続けている。さらに,サウジアラビアにおいても同規模のプラントが建設された。
 本製法は非常に高い目的物収率を達成するとともに,分離精製エネルギーも少なく,既存法に比べて収率およびエネルギーの両面で優れた方法となっている。併産物がなく環境負荷の小さいPO製造法として今後グローバルに展開しうる新技術として発展が期待される。よって,この新規エポシキ化触媒を用いる酸化プロピレン新製法技術は本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 

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