学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

多環芳香族のアルキル化におけるゼオライト触媒の形状選択性に関する研究

 

杉 義弘殿(岐阜大学工学部 教授)

 杉氏は,1971年に東京工業試験所(現 産業技術総合研究所)に入所以来,化石資源の有効利用を目的とする固体触媒の選択性制御に関する研究に従事してきた。1987年からは,重質油中に含まれる多環芳香族炭化水素を材料化するための研究として,ビフェニルおよびナフタレンの選択的アルキル化による4,4’-ジアルキルビフェニルおよび2,6-ジアルキルナフタレンの合成に関する研究を行い,顕著な成果を挙げた。たとえば,各種12員環ゼオライトを触媒として用いイソプロピル化を行った場合,モルデナイトが最も高い選択性を示すが,この高い選択性は遷移状態規制の形状選択性によることを実験的に証明した。これらの研究は,ゼオライトの形状選択性を正確に理解すること,さらには新しい化学プロセスの開発に資するものである。以下にその詳細を述べる。
 ビフェニルのプロピレンによるイソプロピル化をオートクレーブ中で行う際,モルデナイトを触媒として用いると,ジイソプロピルビフェニル中最も分子径の小さい4,4’-異性体が選択的に生成する。反応後のモルデナイト触媒の細孔内に含まれる生成物を分析したところ,ジイソプロピルビフェニル異性体中の4,4’-体の分率が液相生成物中の分率より常に高いことを見出した。さらに,細孔内ではジイソプロピルビフェニルの異性化は進行せず,異性化はゼオライト結晶外表面で起こることを明らかにし,この高い選択性は,拡散に起因する生成物規制の形状選択性ではなく,遷移状態規制の形状選択性によることを明らかにした。また,多くの12員環ゼオライトを合成し,触媒として用い同反応を試みたところ,有効細孔径は同等であっても細孔内の反応場が広いほど選択性が低下することを明らかにした。一方,イソプロピル基よりかさ高いs -ブチル基,t -ブチル基をアルキル化によりビフェニルに導入する場合は,イソプロピル化の場合に選択性の低かったゼオライト触媒でも,アルキル基のかさ高さが増すにつれて選択性が高くなることを見出した。これらのことも選択性が遷移状態規制の形状選択性によることを明確に支持している。
 ナフタレンのアルキル化の場合もビフェニルと全く同様であることを明らかにしている。すなわち,ナフタレンのイソプロピル化において,モルデナイト触媒が高い選択性を示すのは,遷移状態規制の形状選択性によることを,ビフェニルの場合と同じ手法で証明している。なお,杉氏がこれらの研究を行った際,多くのゼオライトを自ら合成し,触媒として用いているが,いくつかのゼオライトの合成法については,その改良法を見出している。これも付随する研究成果である。
 以上のように杉氏は,多環芳香族のアルキル化におけるゼオライト触媒の形状選択性発現に関する独創的かつ先駆的な研究を展開し,その研究業績は顕著である。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

表彰平成20年度表彰受賞者一覧|ページへ