論文賞
速度論モデルを用いた内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)の2成分系分離シミュレーション
松田圭悟殿*1)*4),岩壁幸市殿*1)*5),久保和也殿*2),堀口晶夫殿*2),余 衛芳殿*1)
小菅人慈殿*3),片岡 祥殿*1),山本拓司殿*1),大森隆夫殿*1),中岩 勝殿*1)
(*1(独)産業技術総合研究所,*2(株)三菱化学科学技術研究センター,*3東京工業大学)
小菅人慈殿*3),片岡 祥殿*1),山本拓司殿*1),大森隆夫殿*1),中岩 勝殿*1)
(*1(独)産業技術総合研究所,*2(株)三菱化学科学技術研究センター,*3東京工業大学)
石油・化学産業は鉄鋼業,製紙業,セメント業とならぶエネルギー多消費産業の一つであり,とりわけ蒸留プロセスでは石油化学産業で消費するエネルギーの約40%を消費すると言われており,石油・化学産業においてCO2削減を図る上で蒸留プロセスの抜本的な技術開発が望まれている。
本論文は内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)のベンチプラント(処理量300 kg/h,高さ16 m,外径254 mm)について,速度論に基づいたHIDiC解析モデルを構築し, 2成分(ベンゼン‐トルエン)系混合物の蒸留シミュレーションにより本プロセスの物質移動メカニズムならびに省エネルギー性能を明らかにしたものである。
著者らはまず,ラボスケールのHIDiCを用いた結果について,濃縮部および回収部ごとに蒸気相のReynolds数に対する低沸点成分のH.E.T.P.(Height Equivalent to a Theoretical Plate) を検討した。濃縮部および回収部では低沸点成分であるベンゼンのH.E.T.P.がReynolds数に対し相関関係が認められないこと,加えてReynolds数20,000付近でのデータの発散や濃縮部と回収部における分離性能が異なることなどの結果より,従来の経験的パラメーターではHIDiCの物質移動データの相関および塔設計を行うことが困難であることを示している。その上で,速度論に基づいた解析モデルによりベンチプラントにおける温度,留出液量,缶出液量,各セクションのベンゼン‐トルエン組成の各項目について本シミュレーションを行ったところ,一切のパラメーターフィッティングをすることなく,最大±10%以内という高い予測精度でベンチプラント性能試験結果を再現することができた。さらに,蒸気側における物質移動係数と圧縮率の関係から,分離性能に係るHIDiCの物質移動現象が熱移動支配の現象であることを導き出している。本シミュレーション結果よりHIDiCの省エネルギー性能を検討したところ,従来塔と比較して外部還流比1.70の条件においてエネルギー消費率が44.2%も低くなるなど,HIDiCが高効率型蒸留プロセスであることを証明した。既存の相関式を用いているにもかかわらず,本速度論モデルを用いることによりパラメーターフィッティングすることなく高い予測性能を示す点についてはまだ検討する余地を残すものの,このような手法を活用することにより従来行われるチューニング操作が不要になるならば,広く産業面で普及する可能性が高く,同様の考え方を用いることにより他の実用系への応用展開が十分期待される。
以上のとおり,本研究の成果は今後の石油・化学産業に与える影響が極めて大きいと言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。
[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 50, (3), 162(2007).
*4)(現在)山形大学
*5)(現在)(株)プライムポリマー
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