学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

オレフィン重合用イミン系4族錯体触媒に関する研究

 

藤田  照典殿(三井化学(株)研究本部 触媒科学研究所 所長)

 藤田氏は,塩化マグネシウム担持チタン触媒,メタロセン触媒に続く次世代オレフィン重合触媒として期待されているポストメタロセン触媒の研究に対して,配位子に着目した触媒設計原理を提唱し,多大な成果を挙げている。すなわち,フェノキシイミンを始めとするイミン系二座配位子を有する一連の4族錯体を合成・単離・同定し,これらの錯体がさまざまな活性化剤との組合せにより特異なオレフィン重合能を発現することを明らかにするとともに,同触媒系を用いて新規なポリオレフィン材料を開発している。主な業績は以下の三つにまとめられる。
 第1に,エチレン重合に対して極めて高活性を示すフェノキシイミン(FI)-Zr錯体を見出した。本系で得られるポリエチレン(PE)の分子量は,錯体と活性化剤の組合せにより数千から超高分子量に至るまで容易に制御可能であり,連鎖移動末端も高選択的にC=C結合かAl−C結合を導入しうる。また,分子量分布も単一の錯体を用いているにもかかわらず,系内での異性化を利用することにより単峰性から多峰性まで制御可能である。一方, FI-Ti錯体をメチルアルミノキサンで活性化した系により実用的な重合温度でのエチレンのリビング重合を実現するとともに,連鎖移動剤を組み合わせることにより単分散PEの触媒的合成に成功している。さらに,ピロリドイミン,インドリドイミン,イミンフェノキシ錯体へ展開し,一連の高活性エチレン重合触媒ならびにエチレン‐オレフィン(α-オレフィン,ノルボルネン)リビング共重合触媒を開発している。
 第2に,FI-Ti触媒により温和な条件下でプロピレンのシンジオ特異的リビング重合を実現するとともに,配位子の嵩高さとシンジオ規則性の相関を明らかにし,融点156℃の高シンジオタクチックリビングポリプロピレン(PP)の合成に成功している。一方,FI-Hf錯体をi -Bu3Al/Ph3CB(C6F5)4で活性化した系により融点165℃の高イソタクチックPPが得られることを見出し,それぞれの系における立体特異性重合の機構を解明している。
 第3に,上記触媒のリビング性を利用して,結晶性PE連鎖,結晶性PP連鎖,非晶性エチレン‐プロピレン(α-オレフィン,ノルボルネン)共重合連鎖からなる一連の新規ブロック共重合体を合成するとともに,MgCl2と有機アルミニウムからなる固体活性化剤を開発しFI-Zr錯体と組み合わせることにより超高分子量PE微粒子や表面官能基化PE微粒子の合成に成功している。
 以上より,藤田氏は,次世代オレフィン重合触媒に関する独創的かつ先駆的な研究を展開し,ポリオレフィン材料の新たな可能性を示しており,その研究業績は顕著である。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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