学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

無機酸化物の特性を利用した触媒機能の高度化に関する研究

 

竹平 勝臣殿(広島大学大学院工学研究科 特任教授)

 竹平氏は,これまで一貫して炭化水素の選択酸化反応および改質反応のための触媒機能の発現と高度化に関する研究に従事し,顕著な業績を挙げている。主な業績は以下の三つにまとめられる。
 第一の分野は,酸化物イオン導電体であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いた燃料電池型膜反応器による選択酸化に関する研究である。Au|YSZ|Ag酸素ポンプ系を用いて不活性なAu膜に酸素を供給すると,オレフィンから選択的に不飽和アルデヒドが生成することや,Rh|YSZ|Ag系ではRh膜上でメタンから燃焼反応を経ることなく直接合成ガスが生成することを見出し,このような反応性が格子酸素由来の活性酸素種に依存していることを明らかにした。また,Au|YSZ|Ag上にアリル型酸化触媒であるMo-Bi系複合酸化物を積層した触媒系において,格子酸素のオレフィン選択酸化への顕著な寄与を確認した。さらに,酸素透過速度を高めることによって通常の触媒反応では見られない1‐ブテンからメチルエチルケトンなどの含酸素化合物の生成が促進されることも見出した。
 第二の分野は,均質な結晶性のペロブスカイトやハイドロタルサイト(HT)を前駆体として用いた担持金属触媒の調製に関する研究である。まず,SrTi(Ni)O3ペロブスカイトから調製したNi/SrTiO3触媒がメタンの部分酸化やCO2改質による合成ガス製造に高い活性を示すことを見出した。つぎに,Mg(Ni)-AlHTがアルコール類の液相酸化脱水素に,Pd添加Mg-AlHTを焼成・還元した触媒が気相メタノール分解に,またMg(Ni)-AlHTを焼成・還元した触媒がメタンの水蒸気改質に,それぞれ高い活性と耐久性を示すことを見出した。いずれの場合も,前駆体構造中に含まれる活性金属種あるいはこれを焼成・還元することにより生成する安定な高分散金属微粒子によって,高活性が発現することを明らかにした。
 第三の分野は,HTの有する“記憶効果”を利用する触媒調製に関する研究である。HTは,その焼成体粒子を各種金属塩水溶液中に浸すと,“記憶効果”によって粒子表層にHT構造が再生する。この効果を利用すると,溶液系反応においてギ酸陰イオンをHT層中に濃縮させることによってオゾン酸化分解が促進されること,またegg-shell型の担持Ni触媒が調製できること,さらに極微量の成分の添加が担持金属触媒の高性能化をもたらすことを見出した。たとえば,0.1 wt%以下のRu,Rh,あるいはPtを添加したHT由来のNi/Mg(Al)O触媒が,メタンやプロパンの水蒸気改質および酸化的改質において,燃料電池対応の過酷な反応条件下においても酸化劣化せず,炭素析出に対しても高い耐久性を示した。
 以上,竹平氏は各種の無機酸化物の特性を利用することによって触媒機能の高度化に成功しており,その研究業績は顕著である。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

表彰平成19年度表彰受賞者一覧|ページへ