奨励賞(瀬川・難波賞)

フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法を用いた重質油成分の分析に関する研究

 

宮林 恵子殿(北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科)

 重質油は非常に複雑な混合物であり,従来の分光学的手法では,分析前の煩雑な前処理を施しても平均的な化学構造情報が得られるのみで,個々の成分の構造を明らかにするのは極めて困難な課題であった。宮林氏は,超高分解能測定が可能なフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT-ICR MS)を駆使することにより,重質油成分の迅速で簡便な成分分析法を開発した。
 宮林氏はFT-ICR MSの測定の際のイオン取込み時間,セルトラップ電圧などの多数の因子を最適化することにより,前処理を施すことなく重質油の千を超える成分の分子式を算定できることを示した。さらに,分子式と水素不足指数から,重質油中には芳香族骨格構造は類似しアルキル側鎖が異なる一連の成分が含まれることを明らかにした。また,エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を世界に先駆けて重質油成分分析に適用し,かつESI溶媒を酸性にすることで,重質油中の縮合多環芳香族炭化水素成分と含窒素塩基成分を分別して検出できることを見出した。さらに,電子イオン化(EI)法の欠点を電子線近くに白金線プローブを取り付けるIn-beam EI法 とすることで克服し,質量電荷比800程度までの脂肪族成分に富む炭化水素類や硫黄成分の検出にも成功した。一方,セシウム照射による液体二次イオン化法によると,炭化水素,硫黄化合物,窒素化合物などの成分を同時に検出できることを明らかにした。このように,さまざまなイオン化法の特長を活かすことにより,分離前処理を行うことなく重質油中の特定成分を選択的に検出する手法を開発した。
 本研究で開発された手法は,多様な石油関連物質の分析への応用が可能である。重質油の化学構造分布に関する新たな知見を与え,重質油の反応の解析に有効であるのみならず,迅速性,簡便性という特長から,プラント運転条件の最適化や環境汚染物質のモニタリングなどへの応用も見込まれる。
 以上のように,宮林氏の業績は,重質油の成分分析手法の精密化,迅速化に寄与しただけでなく,今後の石油精製工業における利用への発展も期待され,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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