論文賞

原料油中の微量窒素化合物が水素化分解触媒性能に及ぼす影響

　

　水素化分解プロセスは，重質油から中間留分を得る上で重要なプロセスである。本プロセスには，水素化機能と固体酸機能を有する二元機能触媒が用いられるが，特に固体酸機能は原料油中に含まれる窒素化合物の影響を強く受ける。窒素化合物は固体酸機能を低下させるが，一方では過度の分解活性を抑制する効果もある。用いられるプロセスは一段式と二段式とがある。ともに二つの反応器を逐次的に用いるものであるが，二段式では中間に蒸留塔を設置し気液分離を行うので，上流で生じたアンモニアを除去した油が下流の反応器に導かれる。一段式は蒸留塔を経ずにそのまま下流の反応器に導かれる。
　本論文は，シリカアルミナ担持NiW触媒上で水素化分解を行う上で，原料油中の微量窒素化合物が与える影響について詳細な検討を加えたものである。原料油には窒素化合物を含まない減圧軽油と，これにカルバゾール，トリブチルアミンを加えたものを用いた。カルバゾールは難脱窒素化合物であるため，水素化処理された油中に多く残存することが知られ，トリブチルアミンは反応容器中で容易にアンモニアに転換される。水素化分解プロセスとして二段式のものと一段式のものを対象とした。
　二段式水素化分解プロセスの触媒に対しては，カルバゾールを含む減圧軽油を適用し，カルバゾール由来の窒素濃度が水素化分解活性および中間留分収率の双方に強い影響を及ぼすことを明らかにした。特に，窒素濃度が2 wtppm以下のときに大きな影響が見られ，水素化分解活性に関しては高活性を有する触媒ほど強く阻害されることが明らかとなった。
　一段式水素化分解プロセスの触媒は有機窒素化合物とアンモニアとの双方から影響を受ける。触媒に対する阻害効果を調べるため、カルバゾールおよびトリブチルアミン由来の窒素総量を300 wtppmに保ちながら両者の比率を変えて検討した。カルバゾール比率を増加させた場合，水素化分解活性は低下するが，中間留分収率は増加した。その影響は特にカルバゾール由来の窒素量が20 wtppm以下のときに顕著であった。窒素量が15 wtppm程度で最適濃度になり，活性低下が比較的小さく，中間留分の収率が高くなる領域の存在することを見出した。
　このように本論文は，一段式および二段式の水素化分解プロセスにおける微量窒素化合物の影響を詳細に検討し，一段式プロセスでは窒素化合物濃度に最適値が存在することを報告している。この知見は価値の高いものと判断され，本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文]
J. Jpn. Petrol. Inst. , 50, (1), 44 (2007).

 

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