奨励賞（千代田化工建設賞）

層状化合物を前駆体とする結晶性バナジウム-リン複合酸化物触媒の合成と
　その選択酸化触媒作用に関する研究

　

　神谷氏は，n -ブタンから無水マレイン酸合成触媒として知られる結晶性バナジウム-リン複合酸化物触媒（VP触媒）の性能向上を目指して，反応機構の解明とそれに基づく新規触媒の合成に関して優れた研究業績を挙げてきた。
　神谷氏は調製法ならびに構造の異なるVP触媒の還元，再酸化速度を調べ，バナジウムの4価-5価間での酸化還元挙動を明らかにし，その結果を用いて精緻な反応速度論を展開した。触媒性能は，表面構造に依存したバナジウムの酸化還元能に起因することを明らかにしている。 これらの知見に基づき，高性能触媒の開発を行っており，無水マレイン酸の合成化学に大きく貢献している。
　VOPO₄・2H₂Oがある種の溶媒中で層剥離することは従来から知られていたが，従来法を援用して合成したVP触媒は極めて低活性なものしか得られなかった。神谷氏は，VOPO₄・2H₂Oがアルコール中でも層剥離されることを初めて発見し，これを還元して得られたVOHPO₄・0.5H₂O前駆体結晶は極めて薄い板状微結晶であり，活性化処理を施すと(VO)₂P₂O₇単一微結晶が得られ高性能触媒を調製できることを見出した。この発見は，触媒調製化学における重要な知見であり高く評価されている。加えて，前駆体結晶の還元過程を詳細に検討することにより，高選択的なナノ結晶VP触媒を調製できることも明らかにしている。これらの高性能触媒に関して，昇温脱離法を適用することにより，無水マレイン酸合成に対して強いルイス酸点が重要な役割を果たしていることを報告しており，触媒設計に際し，実用上極めて有用な情報を発信した。
　さらに神谷氏は，鉄の存在はバナジウムイオンの酸化還元速度を大幅に向上させることを見出し，これにより一部のバナジウムを鉄で置換した触媒を開発し，VP触媒の高活性化に成功するとともに，活性化処理における結晶相変化での共存水蒸気の効果を詳細にかつ定量的に調べ，迅速な触媒活性化手法をも確立した。これらの成果は近い将来におけるブレークスルーを強く期待させるものである。
　以上の業績は，VP触媒による軽アルカン選択酸化反応の領域を大きく進展させたものと判断され，本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

｜表彰｜平成19年度表彰受賞者一覧｜ページへ