論文賞

地球潮汐を利用した貯留層モニタリング手法

(所属は論文発表時のものです)

 これまでに開放坑井における水位変動が地球潮汐に起因しており,その度合いが貯留層の孔隙率や流体特性に関連する体積変動に依存していることは古くから知られていた。密閉坑井内では,水位変動に代えて坑井内の圧力変動と地球潮汐の関係から貯留層特性を推定する研究も進んでいる。

 本論文は,貯留層の体積弾性率を貯留層自体の弾性率と孔隙内流体の体積弾性率に分離し,地球潮汐の変動から孔隙の体積弾性率の時間変化をモニタリングする手法に発展させ,CO2の地中隔離,石油天然ガスの貯留層内流体移動のモニタリングへ安価で簡便な手法として応用しうる可能性を示している。

 著者らは,密閉坑井内の圧力データから,ノイズや複数の分潮で複雑な変動を示す潮汐に起因する圧力変動を抽出する手法として,3次元スプライン補間と最小二乗法を用いたアルゴリズムを導入し,必要な成分を抽出するためのパラメーターを数値実験によって導出している。具体的に岩野原のCO2地中隔離プロジェクトのデータに適用し,適切な時間節点間隔を設定することによって,半日周潮ならびに日周潮に応じた圧力変動の抽出が可能であることを示し,論文としての完成度も高い。著者が利用した地球潮汐の力学的理論,孔弾性の力学的理論,圧力変動成分抽出アルゴリズムは,いずれも既存の理論によるものだが,それらを統合し,地球潮汐測定から流体地中移動推定までの一貫した手法を導き出した点に本手法の新規性が認められる。流体地下流動のモニタリングは,CO2地中隔離,石油天然ガス開発等の効率的実施に不可欠である一方,既存技術はいずれもコストが高く,継続的実施には不適切であった。本手法は,坑井内の圧力観測データのみで流体地中移動のモニタリングを行おうとするものであり,簡便かつ安価に結果を得られる点が特に注目される。今後,さらなる実データへの適用を行うことで,本解析手法の精度の評価,検証がさらに進むことが大いに期待される。

 以上の通り,本研究によるアプローチは,CO2の地中隔離,石油天然ガスの貯留層内流体移動のモニタリングへ安価で簡便な手法として応用しうるものであり,今後の石油産業や学術進展に対する波及効果は極めて大きいと言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。


[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 49, (2), 78(2006).

 

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