奨励賞(新日鐵化学賞)

環境触媒の高性能化を目指したゼオライトの合成・修飾に関する研究

小倉 賢殿(東京大学生産技術研究所 助教授)

 小倉氏は,これまで一貫してミクロ・メソ多孔体を基にした触媒設計を試み,触媒性能向上を目指してゼオライトの新規合成および修飾に関する研究を行っている。その対象は,自動車排ガスに含まれる窒素酸化物の除去触媒の開発,ドライゲルコンバージョン法によるゼオライト固体酸性の制御,アルカリ部分溶解によるゼオライト的な酸性質を有するメソ多孔体の調製であり,多孔質触媒の設計と応用において重要な知見を得るとともに,触媒性能の飛躍的な向上に有意義な指針を示したことで,高い評価を得ている。

 自動車排ガス触媒の研究においては,ゼオライト細孔内にイオン交換担持された金属種の担持状態(カチオン/金属/酸化物の同定)と,高活性発現の要因,安定性の発現機構等について,表面科学的に論証しており,従来現象論的な解釈ですまされがちであった自動車排ガス触媒を解析的に整理したことに学問的な寄与は大きい。また,実用技術としての期待が高いドライゲルコンバージョン法によるゼオライト合成に関しては,後処理方法によってゼオライト反応性の支配因子の一つである親水性/疎水性を制御できることを見出すなど,実用的価値が高い成果を挙げている。さらに,メソ多孔体調製に関する研究においては,多くのメソ多孔体材料の固体酸としての応用の足かせとなっていた強酸性の発現が難しいという課題に対し,ゼオライトを原料として部分的にアルカリ溶解させた後に再構成することにより,ゼオライト原料に近い酸強度を有するメソ多孔体を調製することに成功している。この成果は,よりかさ高い基質を固体酸により形状選択的に反応できる可能性を示し,学術的にも産業的にも期待の大きな触媒系の設計に有意義な指針を与えるものであり,高く評価されている。

 以上の研究成果は,多孔質触媒の設計開発における優れた成果であるばかりでなく,今後の環境触媒の設計に対して新しい開発指針を提供するものであり,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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