学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

有機配位子を利用するゾルゲル法触媒調製技術に関する研究

水上 富士夫殿((独)産業技術総合研究所 コンパクト化学プロセス研究センター長)

 水上氏は,ゾルゲル法に配位化学的手法を導入することによって固体触媒の構造や表面を設計・制御する手法を提案するとともに,本手法により得られた触媒が種々の反応に高性能であることを示し,本手法が有用な触媒調製技術になることを実証した。同氏の主要な研究成果を以下に掲げる。

(1)ゾルゲル法による金属酸化物およびそれを担体とする担持金属の物性制御

 加水分解脱水縮合(ゾルゲル)反応による金属酸化物の合成において,金属イオンに配位可能な種々の有機化合物(有機配位子)がゾルゲル反応過程を調節することに着目,この手法によりシリカ,アルミナ,チタニア,シリカ・アルミナ等の金属酸化物の構造,粒子径,表面積および細孔を制御できることを明らかにした。具体的には,ポリエーテルやオキシカルボン酸が重合度制御剤として機能し,シリカやアルミナの粒子径や表面積を制御することができることを証明した。また,ジオールを有機配位子としてアルミニウムイソプロポキシドから得られるアルミナが,高温でも高比表面積を維持することを見出した。一方,ゾルゲル反応時にジオール等の有機配位子を用いることにより,担持貴金属の分散度や粒子径を制御し,貴金属を高分散担持できることを明らかにした。

(2)ゾルゲル法による高性能触媒の調製と様々な反応への応用

 上記のゾルゲル法で得られた金属酸化物および担持金属が優れた触媒能を有することを証明した。高温で高比表面積を維持できるアルミナを担体とするPt触媒は,自動車排ガス浄化反応において,市販のアルコキシド由来のアルミナを担体とする同種の触媒に比べ高い性能を示すとともに,上記の手法で得たアルミナが高温燃焼用触媒担体として使用できることを実証した。また,ゾルゲル法により得たRu-Cu/SiO2はベンゼンの水素化において高いシクロヘキセン生成能を示し,Ru-Sn/Al2O3はオレイン酸の水素化において,通常の反応条件よりも100℃以下,100気圧以下の温和な条件で反応が円滑に進行することを見出した。さらに,アミン化合物を構造規制剤とするゾルゲル法で得られるシリカ・アルミナ複合体は固相で容易にバインダレスゼオライトに転換でき,この手法により得たディスク状のMFI型ゼオライト触媒は,メタノールによるトルエンのメチル化反応において,対応する粉体触媒をしのぐ高いパラ体の選択性を示すことを明らかにした。

 以上のように水上氏は,有機配位子を用いるゾルゲル法触媒調製技術の研究を系統的に行い,本手法が金属酸化物や担持金属の物性に与える影響を明らかにするとともに,触媒反応に展開して応用面においても多くの成果を挙げている。これらの研究成果は顕著であるとともに,石油精製および石油化学の発展に資するところが大である。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

表彰平成18年度表彰受賞者一覧|ページへ