野口記念賞

新規ダウンフロー型リアクターを用いた高過酷度流動接触分解プロセスのサウジアラビアでの実証研究

 近年,石油化学品としてのプロピレンの需要が増加してきている。従来,プロピレンはナフサの熱分解によるエチレン製造の副産物として得られてきた。このプロセスから経済的に得られるエチレンとプロピレンの比率には制限がある。しかし,近年のプロピレン需要はエチレンのそれを上回る勢いで伸びており,また産油国を中心とするエタンを原料とするエチレン単独供給量の増加も見込まれていることから,プロピレンに特化した製造方法が求められている。

 流動接触分解(FCC)プロセスは,減圧軽油や常圧残さ油など重質油を分解することによって比較的高オクタン価のガソリンを製造するプロセスとして,石油精製の中核をなしている。FCCの主生成物は分解ガソリンであるが少量のプロピレンも得られており,このプロピレンが世界のプロピレン供給量の約30%をまかなっている。

 新日本石油(株)はFCCプロセスに着目し,(財)国際石油交流センターの委託を受け,サウジアラビアのKing Fahd University of Petroleum and MineralsおよびSaudi Aramcoと共同で約10年間,FCCから得られるプロピレンの収率を増加させる包括的な研究開発を進めてきた。その結果,プロピレンを効率よく増産するための触媒,反応条件,およびダウンフロー型リアクターなどの新規な要素技術からなる高過酷度流動接触分解(HS-FCC)プロセスを確立し,2000〜2004年度の期間にSaudi Aramcoのラスタヌーラ製油所で30 B/D規模の実証試験を行い,従来FCCでは5 mass%程度のプロピレン収率を20 mass%以上にまで高めることに成功した。また,実証化装置の保守に関する知見をはじめとする実用化する上で不可欠なノウハウを蓄積しており,実用化に目処がついている。

 この実証研究の成果によって,付加価値の低い重質油から石油製品であるガソリンを効率よく製造しながら高い収率で石油化学原料となるプロピレンを製造する技術が開発できたといえる。また,現在の日本の石油・石油化学業界が直面する課題,石油精製のボトムレス化と重質油の高度利用,石油精製と石油化学の効率的な融合と石油コンビナートの競争力強化に対して解決策を与える新規な技術である。国際的にも石油資源の効率的な活用に資する技術として波及効果が大である。さらには,日本にとって重要な産油国であるサウジアラビアとの共同で開発された石油精製・石油化学統合化技術であるので,産油国との技術における連携と友好という意味でも価値のある研究成果であるといえる。

 よって,本会野口記念賞表彰規程第2条1項に該当するものと認められる。

 

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